5章-2.部屋の掃除は定期的にすべきだ 2022.12.24
奥の部屋に少女は入っていった。俺はその部屋の手前で聞き耳を立てる。どうやら室内には少女以外にも人間がいるようだ。
「おお、死神おかえり。任務は完了したのか?」
「……」
「なんだ、まだ処理できていないのか。もう、時間が無い。これ以上は待てないんだ。わかるよな?」
「そ、それについてなんじゃが……」
「随分と長い間帰ってこないから、仕事ができなくて逃げてしまったのかと心配したんだぞ」
「ぬぅ……」
少女と会話しているのが店主なのだろう。俺がいる場所からは姿は目視出来ない。声だけが聞こえてくるが、声の様子から、店主は体格の良い男ではないかと想像できる。
「約束は約束だ。期限内に処理できなければランクアップの話は無しだ」
「その依頼のことについて聞いて欲しいのじゃ。あの男は悪い奴ではなかった。だから、依頼自体がおかしいのじゃ!」
「なに……?」
「ちゃんと男を確認した。だが、悪い人間ではないと我には思えたのじゃ。だから、この仕事は無しにしてほしいのじゃ!」
「……。お前……。もしかして男を発見していたのか?」
「そうじゃ! 男はちゃんと見つけたのじゃ」
「……」
少女は本当に店主に意見を述べて、考えを変えさせようとしていた。本当に真っ直ぐな子だ。裏社会で生きてはいけない程に純粋な子だと思う。
店主と思われる男は暫く黙って考えているようだった。一体何を考えているのだろうか。あまり良い事を考えているとは思えないが。
「……。分かったよ。お前が言うんだ、悪い人間じゃないんだろうね」
「そうじゃ! そうなのじゃ! 分かってくれるのか!」
「そりゃぁ勿論。お前が時間をかけてしっかり確認してきたんだろう? それなら信じるさ。で、その男はどこにいたのか教えてくれるか? ここに地図をかいてくれよ」
「分かったのじゃ!」
これはダメかもしれない。俺は半ばあきらめの気持ちになった。
「本当にその男で間違いないのか?」
「もちろんじゃ! 首の後ろにあるという特殊な痣も確認した!」
「わかった。お手柄だ。お前は本当に幸運の子だな」
「ぬ?」
「おーい! ナツメ! いるか?」
店主は別の部屋に向かって声を張り上げた。ナツメという名の人物を呼んだのだろう。俺は物音を立てないように、さらに物陰深くに身を隠し複数の人間からも見つかりにくい場所へと移動した。
「へい! なんでしょう?」
「ついに……、ついに見つかったぞ! 10億だ! 10億の男が見つかった!!」
「へ?」
「死神が見つけてくれたんだよ、10億の懸賞金がかかった男の居場所を! 今すぐ全員集めろ、今夜殺しに行くぞ」
「へ、へい!!!」
ナツメと呼ばれた男は小走りで部屋を出ていった。
店主が言った10億の男。
それはまさに俺の事だ。俺の首には現在、10憶もの懸賞金が掛けられている。
やはり店側が俺を狙う目的は金だったという訳か。
いつまで経ってもどこへ逃げても、一生付きまとうのだなと、俺は改めて思い知る。
「な、な、なぜじゃ……?」
「死神! お手柄だぞ! 男は生け捕りでなくても、その首には10億の価値がある人間だ! さっさと殺して大金を貰いに行くんだ」
「なぜじゃ! 男は悪い人間じゃないって! 分かってくれたんじゃなかったのか?」
「おいおい、死神はいつまでもオツムが弱いねぇ。悪い悪くないなんて関係ないだろう? 10億の前ではよぉ!」
「っ……」
ぞろぞろとこの部屋に人間が集まってくる気配がする。この場に隠れている以上は見つからないだろうが、油断は禁物だ。物音一つ立てないように、より一層注意を払う。
こうして人数が集まってしまった状況では、隙を見て少女を連れ出して逃げるような事はできない。俺は小さく息を吐き、再び隠密することに集中した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます