7章-5.これが俺の生き方だ 2022.12.24

 俺は大鎌の柄を下にして、地面を突いた。カンッと軽快な金属音が響く。目の前には地面にうつ伏せで倒れる少女が、荒い息を立てながら俺を睨んでいた。もう立つことはできないだろう。


「こんなポンコツ殺すまでもない。どうせ何もできやしない」

「……」

「所詮お前の信念なんてこんなもんだ」

「……」

「弱いお前には、他人の何かを変えさせる権利はない」

「……」


 もう声を出すこともできない程に限界なはずだ。意識を保っているだけでもとんでもない気力だと言える。悔しそうに顔を歪める様子を見ると、きっと何かを言いたいのだろうと思う。だが、それすらもできないようで、少女は涙を静かに流していた。


「俺の前にはもう2度と現れるな」


 少女は承諾も拒否もせず、ただじっと俺を見ていた。俺は倒れた少女のすぐ近くにしゃがみ込み、顎を掴んだ。そして、深緑色の瞳をじっと見る。目は口程に物を言うとは言うが、少女の感情が瞳に溢れているようだった。


  見て見ぬふりをしたいが、それは逃げだ。俺はその瞳から少女の感情を余すことなく読み取った。そして受け止めた。最後までこの少女は諦めるつもりが無いのだと、嫌でも分からされた。最後まで俺の事を信じていた。

 もしかすると、俺の意志すらも勘付いているのかもしれない。それでも、俺は俺がやるべきと決めたことを貫くつもりだ。


 少女との縁をここで完全に切るのだ。

 これが強者である俺の信念だ。


「我は……、絶対に……、諦めぬっ!!」

「そうか。精々頑張ってくれ」

「いつか必ず、分からせてやるっ!」

「あぁ、楽しみにしてるぞ」


 楽しみにしているだなんて、口が滑ってしまった。だが、少女は俺の返事を聞き終わる前に意識を失っていた。聞こえていたのかどうかは分からない。意識を失った少女は、小さな呼吸音を発していた。

 俺は、少女の頬に流れていた涙を拭った。こんな小さな体にとんでもないエネルギーを持っていたものだと感心する。俺は、少女を肩に担ぎ、大鎌も握りしめると、急いでその場を後にした。

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