8章
8章-1.友人から久しぶりに連絡が来たら気を付けたほうが良い 2022.12.25
時刻は夜中の0時を過ぎたころだった。荒れた廃ビルの暗い室内で俺は待機していた。室内に設置されていたテーブルセットの椅子に少女を寝かせていた。
この場所には、他に誰もいない。誰も近づこうとしない廃ビルだ。かつては人が出入りし利用していた施設ではあるようだが、今では誰も利用していない。埃の積もり方から最近まで利用されていたようには思う。
とはいえ、床や壁に血痕が飛び散った痕が無数にあるのだ。ここで何人もの人間が死んだのであろうことは分かる。故に誰も用が無ければ近づこうとは思わない場所だった。
しばらくすると扉の向こうに気配を感じた。呼び出した人物がやってきたのだろう。ゆっくりと扉が開いて、その人物が姿を現した。全身黒づくめの長身の男だ。黒のハットをかぶり、黒のロングのコート身にまとった、明らかに怪しい風貌の男だった。
「レオンさん。来たよ。久しぶりに連絡が来たと思ったら呼び出しなんてびっくりだよ」
「いきなり呼んで悪かった。久しぶりだ。シャドウ」
俺の事をレオンと呼んだ男は、シャドウという通り名の殺し屋だ。
「今オレは、シャドウじゃなくて、アイルって名前だからそっちで呼んでよ」
「あぁ、そうか。警察に転職した時に変えたんだったな」
「まぁね。で、オレ、すごく嫌な予感しかしないんだけど」
シャドウ改め、アイルと名乗った男は苦笑いを浮かべている。俺の背後で気を失っている少女に気が付いたのだろう。
「良い勘をしているじゃないか。お前の予想通りだ。こいつを頼む」
「え……」
「大丈夫だ。こいつは身の回りの事は自分でできる」
「いや、その……。大鎌……。もしかして大鎌の一族? それに年齢的にシャレコウベの娘とか言わないよね?」
「話が早くて助かる。じゃぁ、よろしくな」
「いやちょっとそれは流石に……。オレには荷が重いっていうか……」
「これがどれだけヤバイ案件か、お前なら分かるだろ。お前の上司に話を付けて何とかしてくれ」
「はぁ……、分かったよ。流石に大鎌の一族の子供を野放しにするのはヤバイと俺も思う。こっちで面倒見たほうがマシだろうね」
「こいつには俺がお前に引き渡したことは言わないで欲しい。店の前で気を失っていたところを警察の方で保護した事にしてくれ」
アイルは深くため息を付きながらも了承してくれた。アイルは元殺し屋だが、現在は警察に所属する人間だ。ただその警察というのは、普通の警察ではない。殺し屋や殺人鬼等、正攻法では対処できないような存在を、武力で取り締まり、社会の秩序を保つ事を目的にした組織だ。
表向きには、警察という大きな組織の中の部署の一つという扱いだが、実際は完全に別の組織として動いており、裏警察や秘密警察などと称されている。
少女はそこに面倒を見てもらうのが良いと俺は考えた。今の警察のトップの人間、アイルの上司にあたる人間であれば、この少女を上手く使う事ができるに違いないと考えている。それに、少女の性格を考えれば警察という組織は向いているように思う。
「レオンさんとこの子どんな関係?」
「俺の姪だ」
「は? ならレオンさんが面倒見たほうが良いんじゃ」
「俺はこれから地獄の逃亡生活だ。連れては行けない。大規模組織にまた生きている事がバレてしまったから、当分は誰とも会えないな」
「うわぁ……」
「だから俺はそろそろ行かなきゃならない。アイル、面倒かけるな」
「分かったよ。後はこっちで何とかしておく。レオンさんも気を付けて」
俺は少女の事を警察のアイルに託し、その場を後にした。
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