2章-3.あきらめる事も立派な選択だ 2022.11.16

「武器はどこじゃ!!」

「ポンコツには不要だ。諦めろ。」

「ぬぬっ!」


 今日も元気に少女は殴りかかって来る。俺はそれをひょいと避けると、二人分の朝食をテーブルに用意した。


「踏み込みが浅すぎる。それで良く当たると思ったな。」


 少女は俺に避けられた事で床に転がったようで、悔しそうな顔でこちらを見てくる。


「さっさと食え。話はそれからだ。」


 少女はしぶしぶと言った様子で席に座った。食卓には、大家の佐藤から貰った総菜類が並び、非常に華やかだった。最近の食事は、大家の佐藤のおかげで非常に豪華になってしまった。育ち盛りの子供には必要な栄養ではあるため、俺は有難く受け取っているものの、ともに食事をする俺自身まで健康になってしまった気がする。白米も炊飯器で炊くようになったし、夜ご飯もカップラーメンではなく調理するようになった。少女がここに居座るようになった事で、今までの生活スタイルを大きく変えられてしまったような気がする。


「いただきます……。」


 少女は小さい声で言う。


「腹から声出せ。」

「ぬ……。い、いただきます!」

「よし。」


 最初は何も言わなかったのに比べれば、だいぶマシだ。俺はガツガツと朝食を食べる少女を見る。2週間近くモリモリと食べさせてはいるが、未だにとても痩せている。今までまともに食べてなかったのだとすぐに分かった。こんな状態で、よくもあんなに大きくて重い鎌を持ち歩けたものだと感心する。とはいえ、それを武器として使うには筋肉が圧倒的に足りないはずだ。そう考えれば、この少女は明らかにアンバランスだ。謎だらけである。今考えたところで真相など分からない。俺は何度目かのため息をつくと、いただきますと挨拶をし朝食を食べ始めた。


 俺は深く考える事を辞めた。分からない事を悩んでも仕方がない。とりあえず、なるようになればいいと思う事にした。幸い、俺を殺しに来たと宣言した少女はポンコツだった。どう転んでも俺を殺すことは出来ないだろう。このまましばらく様子を見るべきかもしれないと思う。


 他にこの少女に居場所があるのであれば、そのうち諦めていなくなるはずだ。無理に追い出したところで、大家の佐藤を味方につけた少女には敵わない。何度でも訪ねてくることが容易に想像できる。従って、自然と元いた場所に帰るのを待つ方が無難と考えた。


「よく噛んでから食え。誰もお前の飯を取り上げたりしない。」

「ぬ?」

「ちゃんと噛まないとお腹壊すぞ。」

「ぬっ!?」


 少女はハッとしたような顔をした後、しっかりと咀嚼をしていた。お腹を壊す事に恐怖心でもあるのだろうか。理由は分からないが、良い脅し文句になりそうだなと感じた。少女が食べ終わりご馳走様と挨拶したところで、俺は少女との会話を試みる事にした。そのうち帰るだろうとは思うが、ざっくりとその時期がいつ頃になるのか予測はしたい。少女の今までの生活環境が少しでも分かれば、ある程度は予測できるだろうと考えた。


「お前、家はどこにある?」

「無い。」

「は?」

「家というのは、こういう場所なのじゃろう?それであれば我に家など無い。」

「寝泊まりしている場所は?」

「いつも店の地下室の端で座って寝ている。」


 空いた口が塞がらないとは、まさに今の俺の状況なのだろうと自覚する。どうやらこの少女に帰る場所は無いのかもしれないと、半ば諦めの気持ちが湧いてきてしまったのだった。

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