4章-3.戻るべき場所の存在は大切だ 2022.12.20

 今日俺は、仕事で外に出ていた。少女を家に残して1日中外出をしていた。基本は家の中でパソコンを使えばできるものではあるのだが、全てが全て出来るわけではない。少女がいるため、極力目を離さない様にしたいところではあるのだが、こればかりは仕方がない。


 俺は鍵のかかっていない玄関扉を開ける。室内は既に明るい。帰宅時にこんなに温かい事なんて、今までに無かった。不思議な気持ちだ。


「おかえりじゃ!」

「あぁ、ただいま」


 少女は玄関までやってきて嬉しそうに俺を出迎える。すっかり懐かれてしまったらしい。出会ってから、1か月半だ。俺自身も完全に少女を可愛がってしまっているのだから、これは別れが来たら泣いてしまうかもしれないとすら感じる。


 そうは言ってもだ。少女が言っていた店主が少女を手放すとは思えないというのが俺の見解である。少女を殺し屋としていいように働かせていたのだ。そのくせ、大した面倒も見ていない事は明らかだ。低コストで、かつ命令に対して疑いもせずに働く人材ならば、手放したくないと考えるのが妥当だろう。

 人殺しによる利益がどの程度かにもよるが、それなりの金額になるだろうと考えられる。店主はこの少女で相当儲けていたはずだ。そんな金づるは絶対に手放すわけがない。そのうち探しに来るか、少女を呼び戻しに来るかするように思う。簡単に逃げ切れるとは考えられない。


 それならいっそ、この少女を連れてどこか遠くへ逃げてしまおうか等とも思う。俺自身が少女の店から狙われている対象なのだから、逃げるという選択肢は十分良い考えだ。


「おぢ。難しい顔して何を考えているのじゃ?」

「ん、あぁ。仕事の事だ」


 俺はふっと笑うと、少女の頭を撫でた。すると少女は猫のように気持ちよさそうに目を細めていた。


 俺が色々考えたところで、やはり最終的にはこの少女自身が決めるべきことだ。少女が選択を迷うようであれば、こちらから選択肢を提案するのはありかもしれないが、まずは少女がどう考えているのか、どうしたいのかは聞き出して尊重しなければならないと思う。


 こちらがどれだけ助けてやりたくても、本人が助かりたいという意思が無ければ難しいという事を俺は良く知っている。

 俺は少女から頼ってもらえるほどの人間になれたのだろうか。少女が考える選択肢の中に、俺に頼るというものが含まれている事を願うばかりだった。

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