6章

6章-1.―――――― 2022.12.24

 俺は地下の扉の前に来た。扉は重厚な造りだった。力業で破壊するのは難しいだろう。

 内側から少女の声がひっきりなしに聞こえてくる。出してくれと、男は殺してはダメだと、ずっと叫んでいるようだった。恐らく縄で縛られた状態のまま暴れているのだろう。地下室の奥の方から声が聞こえてくるような印象だ。


 扉の近くには少女の大鎌が立てかけられていた。俺はそれを手にする。使うならこれだろうなと何となく思ったのだ。

 俺は、その大鎌を振るって、地下室の扉に付いていた南京錠を破壊した。これで縄さえ自力で解くことができれば、少女はここを逃げ出せるはずである。俺がここへ来た事は少女には知らせるべきではないだろう。


 俺は小さく息を吐いた。精神を落ち着かせ、集中力を高める。

 

 もう全てを諦めて逃げ続けるのは辞めろという事なのだろうと何となく思う。何年も何年もあらゆるものを捨てながら、自分の命を狙う人間達から逃げ続けてきたが、それももう終わりのようだ。

 逃げるのではなく戦えと、これは諦めるべき事ではないのだと、そう神にでも言われている気分だ。

 

 きっと、少女が店主へまっすぐに向かって行った姿を見たからだろうと思う。逃げる事の方がよっぽど楽で安全であるにも関わらず、少女は逃げずに店主を説得しに行ったのだ。そんな姿を見てしまったから、触発されたに違いない。


 大鎌を握る手に力が入る。大丈夫だ問題ない。そう自分に言い聞かせながら俺は建物から出て夜空を見上げた。キンと冷たく刺さるような空気に身が引き締まる。キラキラと輝く星が鮮明に見えて、自分が置かれた状況とのあまりにも大きな差に笑えて来る。

 俺は大鎌をくるくると回し手に馴染ませた。懐かしい感覚だ。昔触った物より二回りも小さいが問題はないだろう。


 ここで少女を縛るもの全てを終わらせる。


 俺は気配を消し、闇に紛れて店の人間達が出てくるのを静かに待った。

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