6章-4.―――――― 2022.12.24

 周囲は静かだ。夜中なのだからこれが正しい。見上げた空には雲がかかり星は見えなくなっていた。


「なぁ、店主。皆いなくなったけど、どうする?」

「……」


 俺は地面にうつ伏せで倒れている店主へと問いかけたのだが、答えてはもらえなかった。背中を思いっきり踏みつけると、声にならない声を出して体を捩っていた。周囲に転がる5人の男の死体。今もなお血液をだらだらと垂れ流し、地面を汚していた。


「何でだ……。お前は何が……目的だ? それだけの実力があるなら、直ぐに逃げればいいだけだろ」

「まぁ、確かに。それはそうだ」


 俺は店主の上に腰かけた。座り心地は良いとは言えないが、冷たく硬い地べたに座るよりはマシだろう。


「シャレコウベの娘か? あいつが欲しいのか? それならくれてやる。だから――」

「いや、いらん」


 今更少女の身柄を正式に譲渡されたとして、もう遅い。少女が心を許し懐いていたおじさんは、もうここにはいないのだから。

 少女が依頼の取り下げを願い出た時に、素直に承諾さえしてくれれば良かったのだ。そして、余計な事は一切せずに少女の要求通り少女を解放さえしてくれれば良かったのだ。

 まぁ、当然の事ながら、一切期待などしてはいなかったが。


「お前さぁ、俺の生存と居場所の情報、ちゃっかり大規模組織にバラして、先に懸賞金の一部を貰っただろ。やってくれたよな。おかげさまで、今の家はもう利用できないし、俺にはまたしばらくの間、過酷な逃亡生活が待っているわけだ。お前はこれに対してどうすべきと思う?」

「……」

「そりゃぁ、死んで償うくらいしかないよな」

「待ってくれ……」

「他に何か良い案でもあるか?」

「……」

「俺はただ……。何の変哲もない静かな日常こそが至福だったのに。それをこんなにもぶち壊してくれてなぁ?」

「……」 


 店主は何も答えない。だが、何か考えているような様子だ。今更考えたところで無意味だというのに。

 

「お前が状況を理解しやすいように言ってやる。俺は、お前に付いていた殺し屋よりも遥かに格上の殺し屋だ。お前達が何人束になって襲った所で勝ち目は無い。お前はそんな人間を怒らせたわけだ。それで無事に済むわけが無いというのは、ここまで言えば流石に理解できるよな? 死ぬ以外で良い案なんてあるわけが無い」

「ま、待ってくれ……」

「身の程知らずの弱い者は死ぬ運命だ。この社会の常識だろ」


 店主は何としてでも生き延びたいらしい。何か手立てがないかと懸命に思考を続けている。ただ、無様に足掻く姿を見せられたところで、俺の心はあまり晴れる気がしない。


「そうだ! なら――」

「あぁ、ダメだ。悪いがもう時間切れだ」


 俺は大鎌を振るって、店主の首を落とした。

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