3章-3.正しいか正しくないかの判断は他人に任せるべきじゃない 2022.11.30
俺は少女の傷の手当てをした。大家の佐藤から借りた救急セットは非常に優秀で、必要なものは全て揃っていた。
全身に傷があり、手当には時間が掛かったが、少女は俯きずっと大人しかった。ただ、その間も少女は静かに泣き続けていたようだ。何かずっと辛い事を溜め込んできていたのかもしれない等と想像してしまう。非常に過酷な環境だっただろう事はほぼ間違いが無いと思われる。
一体少女の言う店主とはどんな人物なのか。少女を殴って気絶させ公園に捨てた俺が言えることではないのだが、俺はその店主を少女と同じような目に合わせてやりたい気持ちになってしまう。今となっては完全に情が湧いてしまったようだ。少女に対して、言う事を聞かせるために暴力を振るう店主が許せないという思いに駆られる。
「他に傷は?」
少女は首を横に振った。皮膚が変色してしまったところは元に戻せないだろうが、ろくに手当てもされず炎症が起きてしまっていた部分については、直に良くなっていくだろうと思う。
今までずっと痛みを我慢していたはずだ。少しでも楽になっただろうか。もっと早く気がついてやれれば良かったと後悔する。
これは本当に悩ましい話だ。既に情まで湧いてしまったのだ。このまま見て見ぬふりをするのは難しい。とはいえ、自分に何ができるのかという話だ。
少女のいう店主に話をつけに行くなどできるはずもない。むしろ自分は、彼らに処理対象とされているわけなのだから、そんな彼らの前にのこのこ行って、自分の姿を見せるなんて馬鹿げている。
「おぢ」
「なんだ?」
「おぢは悪い人間ではないのか?」
少女は不安そうな顔で尋ねてくる。悪い人間かどうか、何故少女が聞いてくるのかと俺は考えてみる。恐らくは少女の話にあった、悪い人間を殺してきたんだという話に通じるのだろう。
悪い人間を殺す事は正しいことだと信じて今まで人を殺してきたのに、その悪い人間とされていた人物が本当は悪くないのかもしれないと考えてしまったのだろうなと。
「俺が自分で悪い人間じゃないと。良い人間だと言えば、お前は俺を殺すのを辞めるのか?」
「……」
「お前にとって、どんな人間が悪い人間なんだ?」
「……」
「分からないのか? なら、その小さい頭でよく考える事だな」
俺は少女の首根っこを掴んで隣の部屋に連れていくと、少女のために用意した寝床に放り投げた。
「寝てろ」
俺は少女にそう告げて扉を締めた。そして、仕事用のパソコンを起動した。
調べなければならない。自分が動くためにはどんな些細な事であろうと情報が必要だ。
俺は、少女の抱える問題に対して真剣に向き合おうと、覚悟を決めた。
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