7章-2.ブレるな 2022.12.24
少女の攻撃は、どこまでも真っ直ぐで鋭く、素早かった。先ほど相手をした男達より遥かに強いだろう。大鎌によってビュンビュンと空気が切り裂かれていく音が絶え間なく続く。1度でもミスをすれば、確実に首が飛ぶ。それほどまでに、無駄のない美しい動きだった。
だが、それ故に避け易い。俺は攻撃を躱し、少女の背後に回り込むと、がら空きの背中を蹴り飛ばした。
少女の体はいとも簡単に飛ばされていき、地面を転がった。しかしながら、少女は直ぐに起き上がると大鎌をしっかり構え俺の姿をその目に捕らえていた。
こうして戦闘態勢に入った少女は、まさに本物というやつだった。生まれながらの殺し屋なのだろう。才能の塊だ。あんな下衆達から搾取されていい人間じゃない。
「そんな単純で分かり易い攻撃が当たるはずがないだろ。ポンコツは何時まで経ってもポンコツだな」
少女は俺の挑発に乗せられるでもなく、至って冷静だった。少女は俺の指摘に対して的確に対応していた。次の瞬間から攻撃の軌道は複雑になり、フェイントや緩急をつけた攻撃など、途端にバリエーション豊かな攻撃を展開し始める。
毎朝の手合わせの時にあれだけ基礎的な動きを叩き込んできたのだから、この程度の応用ならできるものとは思っていた。しかし、ここまで瞬時に対応してきたのには驚きだった。
俺は少女の成長にニヤけてしまいそうになるのをぐっと堪える。これが正真正銘、最後の手合わせなのだ。教えられるものは全て教えなければと思う。
これから先の少女の面倒を見る事は俺にはできない。せめて、少女が自力で生きていけるように。少なくても力があれば今までのように搾取されることは無いはずだ。
「おいおい……。相変わらず踏み込みが浅いなぁ? そんなんだから間合いから逃げられるんだよ」
俺は少女の攻撃をギリギリで躱すと、大鎌を持つ右手首を弾いた。そして少女が一瞬怯んだ所で大鎌を取り上げた。俺はそのままの勢いで手にした大鎌を回転させ、柄の部分で少女の脇腹付近を薙ぎ払った。少女は再び宙を舞い地面を派手に転がった。
「ボーナスタイムは終了だ。全く、自分の武器ぐらいちゃんと使えないんじゃ、流石にまずいんじゃないか? それに、こんな簡単に奪われたんじゃ、立派な大鎌が泣いてるぞ」
俺は大鎌を上下左右と縦横無尽に振り回してみせる。大鎌は特殊な武器だ。使い辛さからこの武器を選ぶ人間は殆どいない。故に、そんな武器を愛用するのは、それこそ、大鎌の一族の人間だけだろう。
生まれながらにして、この特殊な武器の使い方が体に染み込んでいるものらしい。だから、誰に教わるでもなく扱えるそうだ。
この特殊な武器は扱いにくい事からマイナーな武器であり、故に対策もあまりされていないというのが強みだ。恐らく初見の人間に大鎌の軌道は読めない。特殊な重心移動を予測して立ち回る事など不可能だろう。
だからこそ大鎌を扱う大鎌の一族の人間は強いのだ。
俺はいつか見た恩師が戦う姿を思い出す。記憶を鮮明に呼び起こす。恩師の動きを完全にトレースできるだろうか。いや、そんな弱気でいいはずがない。完璧に行わなければならない。
俺は恩師の動きを自分自身に重ね、一体化する。俺は大鎌を握りしめ、再び少女へと切り込んだ。
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