2章
2章-1.一度動き出したものはなかなか止まらない 2022.11.7
朝は優雅に過ごす、それだけでその日一日が良くなる気がする。俺はホットコーヒーを飲みながら、読書をしていた。静かにまったりと時間が過ぎる。
そう、これでいい。これこそが至福の時間である。この至福の時間を過ごすために俺は、ここ数日仕事を頑張ったのだ。当然の報酬だ。
窓の外に目をやれば、明るい日差しが降り注いでいる。とても良い天気の様だ。こんな良い朝であればクラシックでも流してみたいところだが、生憎俺は音楽を流せる機材を持っていないし、クラシックに知識もない。
ただ、無音でも十分な幸せがあると俺は感じている。完璧な日常だ。
しかし。
「おい! おぢ! ちゃんと風呂に入って洗濯もしたぞ!! さっさと武器を返すのじゃ!」
この騒音さえなければ、本当に完璧だったのに。そう感じて俺は深くため息を付いた。
居間に騒々しくやってきたのは、金髪の少女だ。チラリと顔を上げてみれば、少女は水色のワンピースを着て、髪からぽたぽたと水滴を垂らした状態で仁王立ちしている。
俺は切りの良いところまで読むと、本に栞を挟んで閉じた。少女は非常に怒っているようだ。ずんずんと俺の所までやって来ると、キッと睨んでくる。とはいえ、全く怖くはないのだが。
「ほぉ~ぉ。偉い偉い。次は髪を乾かしてこい」
「ぬ?」
少女は俺の言葉に首を傾げていた。この様子だと、いつもは自然乾燥なのだろう。俺はため息をついて立ち上がった。そして少女の首根っこを掴んで洗面室へと向かう。その間少女はバタバタと暴れていたが無視だ。
洗面室に着くと、俺は少女を鏡の前に立たせた。フェイスタオルを棚から取り出して、少女の頭をわしゃわしゃとこねくり回すように拭く。
「わぁああ! 何をするのじゃ! ぶぇええ!!」
俺は問答無用で続け、ある程度水気が取れたところでドライヤーを取り出した。そして、スイッチを入れ温風を少女の頭に当てた。
「なっ! なっ! 何なのじゃ! やめるのじゃ!!」
暴れる少女を取り押さえて髪を乾かしていく。まるで猫だなと思う。暫くすると、少女は温風に慣れたのか、不機嫌そうな顔をしながらも大人しくなった。
しかしながら、髪全体が乾くころには、気持ちよさそうに目を細めていた。適応能力が高いというのか、警戒心が無いというのか。まだまだ子供なだけだろうか。俺は半ば呆れつつドライヤーの電源を切った。
「終わりだ。次からは自分でやれ。分かったな」
俺がそう声を掛けると、少女はハッとしたように目を見開き、再び俺をキッと睨んだ。
「武器を返すのじゃ! どこに隠したのか吐け!」
俺は殴りかかってこようとする少女の手を掴み、そのまま居間まで引きずって行った。
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