7章-3.突き進め 2022.12.24
少女は器用にも俺の攻撃を避けた。危なっかしい部分はあれど、正確に大鎌の軌道を見極めているようだ。身のこなしは軽やかで、初めて出会った時との差に笑ってしまいそうになる。
だが、まだまだ甘い。俺は少女の意識が抜け落ちているであろう下半身へ、大鎌の柄を使って薙ぎ払いを入れた。少女は足元を掬われ、大きくバランスを崩す。俺はすかさず大鎌の刃を回転させて、少女の首元ギリギリの空気を切り裂いた。
少女の金色の綺麗な髪が、ハラハラと舞う。
「くっ!!」
少女は悔しそうな顔をしながらも、直ぐに体勢を整えて飛び退き、俺から的確な距離を取った。
少女の息は上がっている。こんなもの少女に勝ち目がないという事は少女自身が1番分かっているだろうに、少女は逃げないのだ。極力逃げる選択をさせないように大鎌を取り上げたわけだが、それにしてもここまでの差を見せれば逃げ出すのが一般的だ。
少女自身にも何か、逃げずにやり遂げたい事でもあるのだろうか。
少女の考えが俺には全く分からないように、少女に俺の意図等分かるはずもない。ただ、少女が逃げずにいてくれることは俺にとって好都合だ。俺は再び、踏み込もうと息を吸った。しかしその時だった。
「おぢ!!!」
少女は一際大きな声を張り上げた。俺は動きを止め、踏み込むことを辞めた。
「我は……、知っていたのじゃ。ずっと前から。店主が悪い人間だって」
「それで?」
「それでも、我は弱いから、店主に縋るしかなかったのじゃ。利用されているのも知っていた」
「……」
「我は愚かじゃ」
何が言いたいのか。全く分からない。
とはいえ、店主に対して以前から疑いは持っていたというのは意外だった。俺が想定するよりずっと、少女は自分が置かれていた状況を理解していたのかもしれない。
「おぢが、教えてくれたから。我は確信できたんじゃ。おぢが、正しい生き方を教えてくれたのじゃ」
少女は再びポロポロと涙を零していた。
「我はこれからも正しい生き方をしたい!」
「あぁ、頑張ってくれ」
「そこには、おぢもいて欲しい!」
「なんだ? 店主がいなくなって縋る事が出来なくなったから、今度は俺に縋る気か? それじゃぁやってる事が今までと全く変わら――」
「違うのじゃ!!」
少女は俺の言葉を遮って否定する。
「我は正しく生きたいのじゃ! だが、我はまだ未熟じゃ。まだおぢから学びたいことが沢山ある。縋りたいわけじゃなく、おぢと一緒に生きていきたいのじゃ!」
少女の目は真剣だった。
「おぢは悪い人間じゃないのじゃ! だから!」
「俺は悪い人間だ。人殺しだ」
「それは我の基準ではない!」
「何も見抜けなかったお前に、俺の何が分かる?」
「それでも、この2か月我が見てきたおぢも、間違いなくおぢなのじゃ! 我はそれを信じるのじゃ!」
「何を言うかと思えば……。その身勝手な信念、貫きたいなら分かるだろ。自分の理想を他人に押し付けたいなら、やる事は1つだろ。何度も言わせるな。さっさと力で証明しろ」
少女は苦悶の表情ではあったが、小さく息を吐くと、覚悟を決めたように俺に向き合った。
少女は恐らく、自分の信念を貫くためにここに立っているのだろうと思う。勝てないと分かっていても引き下がらない程に、譲れないのだろうなと俺は推測した。
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