第13話 親友から見た奏汰と綾奈

 篠田さんから聞いた内容を分析すれば、俺たちが別れる原因に綾奈が関わっていることは間違いなかった。


 雨宮さんが俺に別れたい理由を「無い」と言ったのは、俺と綾奈の関係にヒビが入ることを懸念してかも知れない。だが、それくらいで俺と綾奈が縁を切るなんてことはない。


 …………と、思う一方で本当にそうか? と不安に思っている俺がいる。それはたぶん、綾奈と俺が付き合うことを考えておいてくれ、なんて綾奈が言ったからだ。



「お前、別れたばっかなのにもう別の彼女候補いんのかよ」


 数日一人で悩んだ末、俺は大地に相談した。綾奈とのこと、そして篠田さんから聞いた話を伝えると、もぐもぐとカレーパンを口にしながら親友が白い目を向けてくる。


「は? そんな気分になれねーよ。それに、こっちは本気で悩んでんだぞ」

「贅沢なヤツだな」

「じゃあ大地、俺と代わってくれ」

「それは無理な話だな」


 そんなやり取りをしながら俺はチョコチップのスティックパンを頬張る。


「でも、あの綾奈ちゃんがお前のファンクラブの会長だったとはなー」

「驚くところそこかよ? その前に俺のファンクラブがあったことの方が驚きだろ!」

「それは割と前から知ってたぞ」


 シレッと呟かれた事実に「はぁ!?」と声が漏れる。


「だから、前々から言ってるだろ? お前はモテるって。逆に知らなかったのかよ」

「知るわけねぇだろ。知ってたら真っ先にお前に自慢するわ! そういうお前は何で知ってんだよ!?」

「女子がお前のことよく話してるからな」


 くっそ!! そう言えばコイツ男女問わずの人気者だった!! お前は人の懐に入って話すの得意だよな!


「篠田さんだっけ? その子の話を信じるなら、綾奈ちゃんはお前と雨宮さんが上手く行かないように妨害してたってことだな」

「あぁ」

「まぁ、分からなくもねぇけど。ずっと近くにいる幼なじみに振り向いてもらえねぇとか辛すぎるし、可哀想過ぎる」

「俺のせいかよ……」


 呟くと「事実だろ」とキッパリ言い切られた。


「俺は去年、お前が雨宮さんと噂される前は綾奈ちゃんと付き合うと思ってたくらいだからな」

「どうしてそう思ったんだ?」


 尋ねると大地が可笑しそうに笑う。


「だって昔から綾奈ちゃん、奏汰のことよく見てただろ? その様子だとお前は気付いてなかったんだろうけどさ。あれは幼なじみじゃなくて、好きな人に向ける視線って感じだったぞ」


 言われて初めて知った。


 綾奈は本当に俺を好きでいてくれてるのか。


「綾奈が……」

「そうだ。だから俺は、綾奈ちゃんが突然現れた雨宮さんを良く思えない気持ちもわかる。……でも、だからこそ綾奈ちゃんがお前を取られないように必死になって妨害したとは思いたくねぇんだ」


 大地が少し目を細めてそう言った。


「お前が綾奈ちゃんに確かめ難くて俺に相談してることはわかってる。でも、こればっかりはちゃんと本人と話したほうが良いと俺は思う」


 大地の言葉は最もだ。分かっている。分かっていたさ。

 でもやっぱり、俺は怖いんだ。話すことで綾奈と幼なじみでいられなくなるかもしれないことが。それでも覚悟しねぇといけねぇな。


「分かった。今度綾奈と話してみる」


「おう、頑張れよ」と大地は俺の背中を押してくれた。

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