第26話 綾奈の推測

 昼休み。俺は話があると事前に大地と綾奈に連絡をして、いつもお昼ごはんを食べている中庭に3人で集まった。


「篠田さんが雨宮さんに脅されてた!?」

「ちょっ!? バカ!! 声がデケェよ!」


 綾奈を慌てて注意すると、「あっ、ごめん」と彼女が口元を抑える。「おい! 奏汰!! 俺の可愛い綾奈ちゃんに対して、バカとは何だ!!」と大地が怒りだしたが、それは全力で無視する。


「しかも、篠田さんも奏汰が好きなんだって?」


 聞きながら、綾奈がお弁当の卵焼きを齧った。


「あぁ。本人がそう言ってた」


 俺はそう答えてメロンパンを頬張る。


「悪戯されるかもしれないリスクを負ってまで目立つカフェで相談した挙げ句、泣いちゃったって……ちょっと出来過ぎじゃない?」


 綾奈が疑うように目を細めて、顎に手を当てた。


「たまたまだろ」

「奏汰ってば、甘いわね。篠田さんといえば、中学の頃からアンタのこと好きだったんだから!」


 もう一口メロンパンに齧り付こうとしていた俺は「え?」と綾奈を見る。


「篠田さんが奏汰を? それは俺も気付かなかったな」

「彼女、静かだから教室でも目立つような子じゃなかったし」

「……そもそも俺は篠田さんが同じ中学出身ってことを今初めて認識したワ」


 正直に答えると、2人が「嘘だろ!?」「嘘でしょ!?」とハモって驚く。


「まぁ、兎に角よ? 篠田さんは態と奏汰を目立つような場所に連れ出して、目撃者を作ったんだと思う」

「何のために? そんな事しても悪戯されるかも知れねぇだけだろ?」


 まぁ、今日のところはそんな様子は無かったから、昨日のカフェでのことは噂にすらなってねぇみたいだけどな。


「さぁ……そこまでは分からないけど、雨宮さんに自慢する為とか? でも、脅されてるって話が本当なら、そんな事したら、火に油を注ぐようなものよねぇ……」

「じゃあ、それは篠田さんがついた嘘ってことじゃね? それで、雨宮さんや他の生徒に次は自分が奏汰と仲良くしてるんだってアピールしてるとかさ!」


 思い付いたと、言わんばかりに大地が俺たちを見る。


「だが、それなら今回は篠田さんが悪戯されるってことだぞ? 雨宮さんの話し聞いてたのに、そんな事するか?」

「う゛っ、それもそうか……」

「いや、でも待って? もしも篠田さんが奏汰のこと好きなんだとしたら、──────────────────?」


 綾奈の推測を聞いた俺は、一瞬動きを止める。


「いやいや、流石にそれはねぇだろ!」

「そうかな? 私は結構イイ線言ってると思ってるよ」


 そう答えた綾奈の瞳が真剣で、彼女の推理は俺の頭の片隅に印象強く残った。



 ▽▽▽▽▽



 その日の放課後、クラスメイトの誰よりも早く教室を出た俺は、急いで自転車庫に自転車を取りに行く。そのまま校門を出て、少し歩いた所で雨宮さんが通るのを待つ。


 今朝、雨宮さんから話し掛けてきてくれたことで、彼女の中で俺と話をするハードルが下がっていると判断したからだ。だが、雨宮さんよりも先に篠田さんが来てしまった。


 そして、思い出す。今朝、篠田さんが俺を話しの場に誘ったってことは、彼女は今日部活がない日であることを。昨日のカフェでのこともある。俺はいつも下校時にこんな所に立ってねぇから、篠田さんに見られたら絶っ対ぇ怪しまれる。


 くそっ、雨宮さんに謝りたいだけなのに何でこうも上手くいかねぇんだよ?


 仕方なく、俺は自転車に跨ると家までの道をゆっくり漕いでいく。はぁ〜と思わずため息が漏れた。


 もはや神にも縋りたい気分だ。そう思った時、ちょうど、帰り道の途中に神社があることを思い出す。そこは、300段ほどある階段を登った所にある神社で、山の中にある為、普段は人があまり来ない穴場だった。


 こうなったら、神頼みだ!!


 そう思った俺は、山の麓で神社へ続く坂道を自転車で駆け上がる。暫くして階段の近くに自転車を止めると、石段を駆け上がった。

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