第25話 雨宮さんから

 雨宮さんが篠田さんを脅していたという話を聞かされた俺は、篠田さんとカフェで別れた後、ずっと考えていた。


 篠田さんが雨宮さんと仲良くしていたのも、雨宮さんを養護していたのも、全部篠田さんが雨宮さんに脅されていたから。そして、篠田さんが俺のことを悪く言っていたと思われたくなかった理由…………


『ずっと隠してたけど、実は……私も奏汰くんのことが好きなの』


 昨日、赤い顔で篠田さんは俺に告白してきた。


「……」


 ここに来て人生3度目の告白を受けるとはな!!

 俺にも遂にモテ期が来たのか!?


 男ならいつだってモテたい! でも今はどんなにモテても雨宮さんに振り向いてもらえないのなら、それは俺にとってあまり意味がないと言えた。


 だが、雨宮さんが本当に篠田さんを脅していたとしたら、それは嫌だな……うん。嫌だ。


 だけど、雨宮さんが教えてくれた未来の俺は雨宮さんを信じ切れなくて、彼女を傷付けている。雨宮さんと篠田さんの話は矛盾している。つまり、2人はどちらか一方が嘘をついている可能性がある。本当に篠田さんが雨宮さんに脅されていたのなら、雨宮さんへの嫌がらせが酷くなっていった時に、それを理由に篠田さんが側を離れれば、雨宮さんの脅しから開放された筈だ。


 どちらを信じるか、答えはもう出ている。俺は雨宮さんを信じたい。だけど、ろくに考えもせず、ただ篠田さんを責めるのも良くないだろう。暫く様子を見よう。それから、大地や綾奈にもこの話をしないとな。


 そんな風に考えて、いつも通り教室へ入る。


「あっ! 奏汰くん!!」


 席に向う途中で篠田さんが俺を呼ぶ。


「昨日はありがとう。これ、借りてたハンカチ」


 そう言って手渡されたのは、確かに昨日俺が貸したハンカチだ。


「ちゃんと洗濯して、朝からアイロンも掛けてきたからね」


 ピシッとシワ一つないそれを受け取る。


「アイロンなんていいのに。……わざわざありがとな」

「借りたんだもん。当然だよ」


 そう言って、篠田さんが笑顔を見せた。


「それと、今日も時間があるから昨日の話の続き聞けるけれど、どうする? 昨日は殆ど私が紗蘭ちゃんの為に話しちゃったから、奏汰くんの話しはあまり聞けなかったし」

「え……?」


 昨日の続きをまたやるってことか……? いやいや。それは勘弁願いたい。それに、今のところ俺には篠田さんに話すことがない。俺が真っ先に話さなきゃいけないのは雨宮さんだ。


「悪ぃ、今日は用事があって」

「そうなんだ? 私は部活が無い日ならいつでも大丈夫だから、奏汰くんが都合のいい日に声かけてね? あ! くれぐれも紗蘭ちゃんに話かけて、紗蘭ちゃんを傷付けちゃダメだからね?? 紗蘭ちゃんの話は私が全部聞くから」


「おっ、おう」


 何だろ。……何か、すげぇ圧を感じる。そんなに、雨宮さんのこと警戒してんのか??


 篠田さんが席に戻ったので、俺も自分の席に着く。カバンの中から、教科書やノートを出して無造作に机に詰め込む。


「…………随分楽しそうだね」


 不意にそんな声が隣から聞こえてきて、「えっ?」と振り向く。こちらには顔を背けたままの雨宮さん。一瞬、俺の空耳かと思ったが、彼女が続ける。


「……ミホちゃんと仲良くなったんだ?」

「え、そんなんじゃないけど……?」


 あの日、トラックから雨宮さんを守った日以来、初めて彼女から話し掛けてきてくれた!!


 まさかの展開に俺の心は舞い上がる。

「そう」と短く興味のなさそうな彼女の声。だが、これは放課後に雨宮さんよりも早く学校を出れば、話を聞いてもらえるかもしれない。そんな期待が俺の中に膨らんだ。

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