第4話 イルミネーションデート

 約束の日が来た。今回のデートの目的はイルミネーションなので、集合時間は少し遅めの15時。

 紗蘭の最寄り駅を待ち合わせ場所にした俺は彼女を待たせる訳にはいかないと、約束よりも20分早い時間に到着した。だけど、その5分後には紗蘭も待ち合わせ場所へやって来た。


「奏汰くん!」


 スマホを眺めていた俺は呼ばれて顔を上げる。

 駆け寄ってくる彼女の姿と時間を見て、早めに来て良かったと胸を撫で下ろす。


「ごめん、私来るの遅かった? 待ったよね?」


 そう尋ねてくる紗蘭は学校の制服姿とは違って、おしゃれなコートに身を包んで、風が吹くと揺れる長いロングスカートを履いていた。髪型もいつもと違っていて、兎に角可愛い。

 その一言に尽きた。


「……あ、いや、全然。俺が早く着いただけだから」


 あまりの可愛さに見惚れてしまった。

 余裕のない返事をしてしまったことが少し悔やまれる。


 やベぇ、俺こんな感じで今日大丈夫か??


 何を隠そう、俺は今日のイルミネーションデートで彼女に告白しようと考えている。

 もしかすると、彼女は俺のこと何とも思っていないかもしれない。だがしかし! このデートは紗蘭から誘ってきたんだ。これは脈アリと見て問題ないだろう。それに、学校の中じゃ俺が一番紗蘭と仲良しなんだ! 自信を持て! 俺!!


 心の中で自分に喝を入れる。


「そう? それなら良かった」


 そして、ホッとして笑顔を見せてくれる紗蘭にときめく。


「じゃあ、行くか」


「うん」と頷いた彼女と共に改札をくぐって、俺たちは目的地を目指した。



 ▽▽▽▽▽



 会場の最寄り駅を出て、まずは少し早めの晩御飯を探す。

 近くのファミレスに入って腹ごしらえを終えると、店を出る頃には外が暗くなっていた。会場の方へ進むに連れて休日だからか、段々と人が多くなっていく。

 そっと、紗蘭の手を掴むと驚いた彼女と目が合った。


「はぐれたら大変だろ?」


 そんな言い訳をすれば「うん」と控えめな声。男とは違う、柔らかい手の感触にどきどきする。最初は少し冷えていた彼女の手だったが、歩き進むに連れて温かくなっていく。


 暫くは何を話していいか分からなくて、お互い黙ったままだった。だが、イルミネーション会場が近付くと辺りが明るくなって、近くまで来るとその景色に「わぁ」と紗蘭が感嘆の声を漏らした。

 奥の方まで続くイルミネーションは電球の数も多く、色とりどりで鮮やかだ。


 ただの電球と言ってしまえば夢の欠片もロマンチックさもなくなるが、これは凄いな……


「奏汰くん! 綺麗だね!!」


 隣の紗蘭が笑う。それだけで俺は、一緒にここに来てよかったと思う。「あぁ」と頷いて一緒にイルミネーションの続く道をゆっくりと進んで行った。

 あちこちに視線を巡らせて、時々紗蘭と言葉を交わしながら俺たちはイルミネーションを楽しんだ。暫くすると、大きな広間に出る。一際賑わうここが、恐らくこのイベント最大の見せ場なのだろう。


「奏汰くん」


 不意に立ち止まった紗蘭が俺の名を呼ぶ。


「今日は付き合ってくれてありがとう」

「こちらこそ、誘ってくれてありがとな。俺も行ってみたからったから、丁度良かったよ」


 何処か緊張して見える紗蘭の様子に何だ? と不思議に思う。


「あのね、今日は奏汰くんに伝えたいことがあって……」


 そう切り出した彼女に、俺はある一つの可能性が頭に浮かぶ。


 まさかな。いや、でも俺も同じこと考えてたワケだし? ありえない話じゃない。

 もしそうだとしたら、このままでいいのか俺!?


 そう考えた俺は「私──」と言いかけた紗蘭の言葉を遮ってまで「待って」と声を絞る。


「っ!」

「俺も、紗蘭に伝えたいことがある」


 紗蘭の瞳が揺れる。驚と不安とが入り混じった様なその瞳は、周りのイルミネーションではなく、俺だけを映していた。


 何時になく声が震える。


 紗蘭の言葉を遮ってまで話し始めたのに、これじゃカッコつかねぇじゃねーか!!


 思っていたより緊張しているのが、自分でもよく分かる。


 今思えばこんな事、小学生以来だったな。

 そう思うと俺ってどれだけ残念なヤツなんだよ……


 こんな時に限って思考はよく回る。それなのに、そのどれもが今とは関係ないことばかりだ。雑念を無理やり頭から追い出す。


「好きだ」


 やっと絞り出したのはたったの3文字だった。

 ヒュッと目の前の紗蘭が喉を鳴らす。だが、特にそれ以上の反応も言葉もなくて、不安が押し寄せてくる。


 俺、もしかして今めちゃくちゃダサい??


 そう思った途端、寒いのに冷や汗が吹き出てきた。でも、紗蘭はホッと息を吐くと優しい眼差しで俺を見た。


「奏汰くん、ずるいよ」

「え?」

「本当は私から伝えようって決めてたのに」


 告げた紗蘭の頬がイルミネーションのライトに照らされてほんのり赤く染まっていく。


「…………それって」

「これからはただのクラスメイトじゃなくて、恋人としてよろしくね」


 恥ずかしそうに笑う彼女の姿は、今まで見てきたどの表情よりも一番可愛くて、俺にとって忘れられない瞬間になった。

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