第18話 悪戯
冬休みが明けて一週間がたった頃。学校で私と奏汰くんが付き合っている噂が流れ始めた。
私は奏汰くんと付き合ったことをミホちゃんにしか言っていないし、奏汰くんも親友の大地くんと幼なじみの横山さんにしか言っていないらしい。
冬休み明けも、いつも通り奏汰くんと接していたつもりだったけど、私たちからそんなに付き合ってる雰囲気の様なものが出ていたのかな? なんて、私は浮かれたことを考えていた。
奏汰くんは目立つことがあまり好きじゃないと聞いていたし、私自身もここまで噂されるのはちょっと嫌な気持ちだった。それでも人の噂も七十五日と言う言葉がある。暫く我慢すれば自然と収まると考えていた。
でも、そんな私の考えは甘かった。
噂が出回り始めた頃、朝に下駄箱を開けると紙くずが入っていた。最初はほんの少し。けれど日を追う事にその量は増えて、次第に食べ終わったパンやお菓子の袋まで入れられるようになった。
「……手が込んでるなぁ」と思わず呟く。
私は毎朝一人で登校している。けれど、帰りは奏汰くんと一緒。だからだろうね。奏汰くんに見つからないように、帰りにゴミが入っていることはなかった。
やることが子どもじみてる。私はこんな事で負けない。奏汰くんを諦めたりしない。そう誓って、毎日下駄箱に入れられているゴミをそのままゴミ箱に捨てていた。
それから三週間がたった頃、朝に登校すると今度は机の引き出しに紙切れが入れられているようになった。そこに書かれていたのは「奏汰くんと別れろ!」「しね!!」といった二種類が主な内容だ。
こうも典型的なのが来るなんてビックリだな。
最初はそうやって呆れていたけれど、それが毎日のように続くと流石に心が疲弊する。毎朝、奏汰くんが学校に来る前に捨てなきゃいけない私の身にもなって欲しい。
そう思いながら片付けていると、「紗蘭、おはよう」と奏汰くんの声。
「えっ!? おはよう! 奏汰くん、今日早いね!?」
私はサッと紙切れを隠しながら尋ねる。
「あぁ、いつもより早く目が覚めたから、早めに出てきたんだ。どうかしたか?」
少し驚いて慌てた私の違いに気づいたのか、キョトンとした奏汰くん。私は「ううん、ちょっと驚いただけ」と誤魔化して、その場を乗り切った。
▽▽▽▽▽
「紗蘭ちゃん大丈夫?」
「え? 何が?」
昼休み、いつものようにお弁当を広げる私にミホちゃんが心配そうに尋ねてくる。
「最近、少し元気ないみたいだから」
「……そうかな?」
ドキッとして聞けば「うん、少し無理して笑ってるように見えたから」と答えが返ってくる。
「それに……」
何か言いかけたミホちゃんがそこで言い淀む。
「それにどうしたの?」
「横山さんが紗蘭ちゃんのことで私のところに来たの」
「え?」
横山さんが?
「紗蘭ちゃんに奏汰くんと別れるように説得して欲しい……って」
パタッとミホちゃんが、持っていたお箸を置いた。
ミホちゃんが私のことで苦しんでいる姿に、ギュッと胸が締め付けられる。
「断ったら、たぶん私も紗蘭ちゃんみたいに悪戯されると思う」
「……知ってたんだ」
「だって紗蘭ちゃん毎朝、引き出しから取り出した物、ゴミ箱に捨ててるでしょう?」
そんなところを見て気付いてくれたんだ。その事に、こんな状況だけれど嬉しくなる。
「でも、どうしてミホちゃんまで悪戯されるって思うの?」
「小学生の頃、奏汰くんと仲良かった子がいて、その友だちも色々と困ってたみたいだから」
「そうなんだ……」
私のことでミホちゃんをこんなに悩ませてたなんて。
「ありがとう。私の為にごめんね」
言うと彼女が首を横に振るう。
「ミホちゃんは気にしないで。私、横山さんと話すから」
「紗蘭ちゃん……」
「横山さんが奏汰くんのファンクラブ会長さんだから、横山さんに分かってもらえたら悪戯もなくなると思うの。そしたら、ミホちゃんも大丈夫だから」
私は安心させるようにミホちゃんに笑いかけた。
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