第19話 横山さんとの話し合い
お弁当を食べ終えたあと、私は横山さんがいる1組の教室へ向かった。
扉を開けて教室に入ると、珍しくやって来た隣のクラスの私に幾つか好奇の視線が注がれる。落ち着かない気持ちを抱えながら横山さんを探すと、友だちと談笑している彼女を見つけた。数歩近付くと、横山さんも私の存在に気付いてニコッと笑いかけてくる。
「雨宮さん、どうしたの?」
「横山さんに話したいことがあって」
告げるとピクッと彼女の眉が動く。
「分かった。ここじゃ騒がしいし、場所を変えよっか」
立ち上がった彼女が「着いてきて」と言った言葉に従って、私は横山さんの後を追いかける。
暫くして、人通りの少ない空き教室に着いた。二人で中に入って私は彼女と向き合う。
「それで話したいことって?」
「うん。あのね、少し聞いて欲しいんだけど、私が奏汰くんと付き合ってる噂が流れた頃から、私の下駄箱に毎朝ゴミが入れられるようになっていて、最近では机の中に“別れろ”って書かれた紙切れまで入っているの」
「えっ? 誰がそんなことを? ……雨宮さん大丈夫?」
心配した様子で尋ねてくる彼女。だけど、所詮は他人事だ。
「分からない。でも、横山さんは誰がやっているか知っているんじゃない?」
探るような視線を彼女に向ける。
「どうして私が? 知ってる訳ないでしょ?」
「でも、心当たりはある。違うかな?」
畳み掛けると、少し間をおいて横山さんが口を開く。
「……そう思うなら、最初から私の忠告を聞くべきだったんじゃない? 今からでも遅くないと思う。雨宮さんもファンクラブに入って? それで奏汰と別れれば、きっと全て元に戻ると思うから」
ニコッと横山さんが笑いかけてくる。その笑顔が少し不気味で、怖じ気付きそうになるのをぐっと堪える。
「私はファンクラブには入らないし、奏汰くんとも別れないよ」
キッパリ宣言すると、横山さんの顔が固まった。
「何言ってるの? このままだとお友だちも被害に合うかもしれないんでしょ?」
「……私、ミホちゃんのことは何も言ってないけど?」
私は自分が遭った被害の話しかしていない。それなのに、横山さんからミホちゃんの話が出てきた。
「え? や、やだなぁ。何となく、そんな気がしただけだよ?」
誤魔化そうとしている横山さん。けど、そうはさせない。
「横山さん、ミホちゃんに私と奏汰くんが別れるように説得するように言ったんでしょ?」
尋ねると少し間があってから、「なんだ。聞いたんだ」と彼女が呟いた。
「私と奏汰くんのことにミホちゃんは関係ない。だから、ミホちゃんを巻き込まないで。言いたいことがあるなら、直接私に言ってもらえるかな?」
言った! 横山さんに言いたいこと言えた!!
その事にホッとすると、緊張していたのか胸がどきどきと音を立てていることに気付いた。
これで、横山さんが分かってくれれば、きっとミホちゃんに迷惑が掛かることはない筈。あとは、ファンクラブの子たちの嫌がらせを私が耐えれば良いだけだ。
そう思っていた。けど、横山さんは悪びれる様子もなく、口を開く。
「どうして私が雨宮さんの言うことを聞かなきゃいけないの?」
「え……」
「雨宮さんだって、私が何度もファンクラブに入ってって言ったのに、断ったでしょ? それなのにどうして私が雨宮さんの言うことを聞いて、ファンクラブの子たちに我慢を強制しなきゃいけないの? それじゃあ彼女たちが可哀想じゃない?」
確かに、横山さんには何度もファンクラブに入るように言われた。
一度目はまだ、奏汰くんと付き合う前の秋に。二度目は、付き合ったあとすぐだった。
「……それは、そうだけど」
「それじゃあ、私も雨宮さんの言うことは聞けない」
それは、私がファンクラブに入らない限り、ミホちゃんを巻き込むことを止めないと暗に言われている様なものだった。
何を言ってもムダ。
そんな風に言われている気がした。
「そんな……」
「私はこんなことになる前に雨宮さんの為に提案したのに、それを拒否した人のお願いなんて聞きたくない」
どうしよう。ミホちゃんが横山さんに言われたことを私にバラしたことが、今のやり取りで彼女に伝わってしまっている。このままじゃあ、ミホちゃんまで……!!
「どうする? ファンクラブに入って奏汰と別れる? 選ぶなら今のうちだよ?」
「……」
奏汰くんは私の好きな人で、私にこの街を案内して連れ出してくれたカッコよくて優しい私の彼氏。
ミホちゃんはクラスで浮いていた私と一緒にお昼を食べたり、色々教えてくれたり、話したりしてくれた大切な友だち。
ファンクラブに入ると言うことは、奏汰くんを諦めると言うこと。でも、今のままでは現状を何も変えられない。う
どちらも私にとって大切なものだから。
どちらか一つなんて、選べない。
「選べない。……私は奏汰くんもミホちゃんも両方大切だから」
「そっか。じゃあこの話は終わり。力になれなくて悪いけど、私にはどうしようもないの。……それでも、嫌がらせを止めたいなら、雨宮さんが直接ファンクラブの子たちに言いなよ」
告げると横山さんは教室を出ていった。
私にはファンクラブの子が何人いるのかも、その中の誰が私に嫌がらせをしているのかも分からない。分からないのに、説得なんて出来るはずもなかった。
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