第22話 出来事の流れ
「これが、私が体験してきた未来の話だよ」
静かにそう告げると、空き教室がシーンと静まり返る。
荒木くんも横山さんも複雑な表情で黙ったまま。ミホちゃんは私の話を聞き終えて耐えられなくなったのか、肩を震わせて俯くと顔を隠していた。
「どう? 信じられないでしょ? だって荒木くんの好きな幼なじみの横山さんが、私たちを別れさせようとして脅してきたんだから」
私がそう口にすると「いや……そんな筈は……」と荒木くんが視線を泳がせながら言葉を探す。
「信じたくない気持ちも分かるけど、実際に起こったことなんだよ。……きっと私を別れさせて、横山さんが荒木くんと付き合える機会を伺ってたんじゃないかな? あのまま私と荒木くんが今も付き合っていたら、あの未来は避けられなかった。だから別れたんだよ。私たち、付き合い続けてもお互いに不幸になるだけだったでしょ?」
そこまで言って私は視線を下げる。
だからこれで良かったんだ。私が荒木くんと別れたから嫌がらせは起きてないし、ミホちゃんにも迷惑を掛けずに済んだ。
まだ時間が巻き戻ってからの私が死なないかどうかまでは分からない。けれど、あの時の様に荒木くんに信じてもらえなかったことと、別れたショックで、ぼーっとしながら帰り道を歩くことはない筈だから、迫ってくるトラックに気づかないなんてこともないもんね。
「雨宮さん、一つ良いかな?」
荒木くんの親友である大地くんが問い掛けてくる。
それに「なに?」と短く尋ねる。
「雨宮さんは綾奈ちゃんが奏汰と付き合える機会を伺ってたんじゃないか? って言ったけど、少し前から俺と綾奈ちゃんは付き合ってるんだ。だとしたら変じゃないかな?」
その言葉に「えっ?」と目を見開く。思わず大地くんと横山さんを交互に見た。
未来では横山さんは大地くんと付き合っていなかった。でもどうして? 私はこっちに戻ってから横山さんと直接関わっていない。だから、この二人の関係が未来と変わるなんてあり得ない筈だけど……
「荒木くんが好きな横山さんが、どうして大地くんと?」
横山さんを見つめて問い掛けると、少し気まずそうな横山さんがゆっくり答える。
「雨宮さんが奏汰と別れたあと、私は奏汰に告白したの。……でもフラれた。奏汰はまだ雨宮さんが好きなんだって。だけど、私は気持ちを伝えられてスッキリしたから後悔してないよ。……それで、ずっと奏汰とのことを相談していた大地にそのことを伝えて。……その時に付き合うことになったの」
私が荒木くんと別れたことで、私が直接関わっていないところで、未来とは違う動きがあったらしい。
「なるほど。私が未来とは違う選択をしたから、流れが変わったんだね……」
納得して呟く。そうと分かれば、もう私が未来と同じ結末に辿り着くことはないだろう。
未来のように嫌がらせをされることも、荒木くんに信じてもらえなくて、誤解されることもない。
どれもいいことばかりだ。それなのに、なんでこんなに胸が苦しいのかな……?
自分の気持ちに戸惑っていると、横山さんが「あのね、雨宮さん」と話しかけてくる。
「未来で私が雨宮さんと奏汰くんを別れさせようとした理由、何でだか分かるよ」
その言葉にムッとする。
どうせ悔しかったんでしょ? 幼なじみの横山さんじゃなくて、私と荒木くんが付き合ってたこと。だから、元々私たちが分かれたら横山さんは荒木くんに告白するつもりだった。結局、横山さんが今の時間の流れで荒木くんに告白しているのがなによりの証拠じゃない。
「もうやめて!!」
突然、ミホちゃんが大きな声を上げる。
「紗蘭ちゃんは未来で凄く傷付いてきたの! それなのに、横山さんはまた紗蘭ちゃんを傷つけるの!? もうほっといてよ!!」
バッと私を背中に隠してミホちゃんが横山さんに叫んだ。私を想って行動してくれたミホちゃんに胸が熱くなる。
「ちょっと、待って? 私は別に傷付けるつもりなんてない。ただ雨宮さんに──」
「紗蘭ちゃん行くよ!!」
横山さんの話の途中でミホちゃんがグイッと私の手を掴むと、そのまま駆け足で教室を出ようとする。
「えっ!? あっ! ミホちゃん! 待って!!」
私は慌てて足を動かして、彼女に引かれるがまま空き教室を後にした。
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