第21話 全てが一変した日
翌日、学校に来ると全てが一変していた。
教室に入ると一気に私に注がれるクラスメイトたちの視線。そして、私を見てヒソヒソと交わされる噂話。
「まさか、あの雨宮さんがねぇ」
「俺、雨宮さんのこと好きだったけど、まさかそんなやつだったとは……」
「いやいや、書いてあることが本当かどうか分かんねぇだろ!?」
などなど、あちこちから聞こえてくる。
先に来ていたミホちゃんが黒板消しで消してくれていたけれど、まだその途中だった。黒板に書かれている文字を見て私は全てを理解する。
【雨宮紗蘭は荒木奏汰と二股掛けていた最低女!!】
誰かの書き殴った文字が並んでいた。奏汰くんはまだ学校に来ていないから、ファンクラブの子辺りの仕業かな……
「ミホちゃん、代わるよ」
声を掛けるとビクッと彼女の肩が揺れる。
「紗蘭ちゃん……」
「ごめんね。こんな事させて」
「そんなこと……」
「私たち、暫く一緒にいるのやめよう」
じゃないと、益々ミホちゃんに迷惑かけちゃう。
私は恋人に続いて友だちまで失ってしまった。
▽▽▽▽▽
限界だった。
いつまで続くか分からない嫌がらせが。
限界だった。
クラスメイトや同級生たちの好奇の目が。
限界だった。
好きな人に誤解されたまま嫌われたことが。
だから、私は帰り道でいつも渡る信号が赤になっていることに気付かなかった。
急かすように何度も鳴らされるクラクションの音にハッとする。振り向くと、大きなトラックが目の前に迫っていた。
キキーィィッ!! と、ブレーキ音が響く。
あ……私、死ぬんだ。
頭の中は何故か冷静で。次の瞬間、声にならないほどの激痛が一瞬のうちに体に走った。
最期に脳裏に浮かんだのは、大好きな奏汰くんの笑顔だった。
▽▽▽▽▽
「っ! 紗蘭!!」
「きゃっ!!」と小さく声を上げて、体が地面に倒れ込む。
私、轢かれたんだ…………
それなのに、何故か頭は冷静にそれを認識して、体も全然痛くない。そんなことよりも、今奏汰くんの幻聴が聞こえた気がする。
「紗蘭!! 大丈夫か!?」
ほらまた聞こえた。反射的に瞑っていた目をゆっくり開くと、そこには私を心配そうに覗き込む奏汰くんの姿がある。
「え…………?」思わず声が漏れる。
どうして奏汰くんがここに? 奏汰くんとは昨日別れたから、今日から別々で帰っているし、奏汰くんの家はこっちの方向じゃないのに。
「……奏汰くん?」
問い掛けると焦った彼が早口で尋ねてくる。
「あぁ、俺だよ。どこか痛いところは!? 怪我してない!?」
なにか変だ。失望して別れた私を奏汰くんがこんなに心配するのかな? それに、もうすぐ春が来るはずなのに妙に寒い気がする。
ゆっくりと身体を起こして、自分の身体を確認する。トラックに轢かれた筈なのに、どこにも怪我をしてない。それから………
「……寒い」
思わず呟くと「それは冬だからだろ。じゃなくて、怪我は?」と奏汰くんが聞いてくる。
「たぶん、してない……」
「立てるか?」
奏汰くんは、どうして私に優しくするの?
そう戸惑いながら、差し出された手を取って彼立ち上がる。
キョロキョロと辺りを見回すと私がトラックに轢かれたはずの信号よりも、もう一つ先の信号に立っていた。
「私、何でここに?」
呟くと奏汰くんが答えてくれる。
「さっきまで、俺たちクリスマスデートしてただろ。その帰りだ。紗蘭、大丈夫か? 少し休もう」
クリスマスデート……それを聞いて思い出す。
確かにあの日も私はトラックに轢かれかけた。奏汰くんが居てくれたお陰で回避できたんだ。
奏汰くんに手を引かれてハッとした私はその手を振りほどく。「紗蘭?」と戸惑う奏汰くんに、私も何が何やら分からない状況に戸惑っていた。
「ご、ごめん。もう大丈夫だから! 私、先に帰るね!!」
「え? 何言って……」
聞き返した奏汰くんの言葉を全て聞く前に、私は点滅し始めた青信号を駆けて横断歩道を渡りきった。
「紗蘭? 紗蘭! 紗蘭っ!!」
奏汰くんが呼び止める声がしていたけれど、駆けたまま振り返らずに家を目指した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます