第2話 名前呼び
雨宮さんと放課後デートした翌日。
「奏汰くん、おはよう!」
ニッコニコ笑顔の雨宮さんが俺の隣の席に座る。
「雨宮さん、おはよう」と挨拶を返すと途端にぷく〜っと膨らむ彼女の頬。
「もう! 昨日私の事も名前で呼んでって言ったのに、また戻ってるよ?」
そう、昨日の放課後デートで俺だけ名字呼びなのはよそよそしいということになり、彼女を名前で呼ぶことになった。
確かに昨日、了承はした。だが、ここは学校の教室。クラスメイトの視線がある中で、雨宮さんを名前で呼ぶことは躊躇われた。
「あ、ごめん。えーと、さ、
やべ。最近は綾奈以外の女子を呼び捨てとかしたことなかったからめちゃくちゃ照れる。だが、彼女はそんな事を知る由もなく、俺から名前で呼ばれただけなのに嬉しそうに笑った。その姿に目を奪われる。
俺が今彼女をそんな
▽▽▽▽▽
昼休み。購買にパンを買いに廊下を出ると、隣のクラスの親友も丁度教室から出てきた。
「おっ、噂の荒木奏汰くんハッケーン!」
「…………
茶化してくる大地の様子に何かしらあるのだと悟る。
「お前、昨日雨宮さんと放課後に2人で出掛けたんだって?? どー言うことだよ? 詳しく聞かせろ」
肩を並べて歩き出した俺の腕をグイグイと押しながらそう聞いてくる。
「ちょっとこの辺の店教えただけだ」
「ちょっとだぁ? そもそも、どうやって話すきっかけ作ったんだよ? 今までずっと隣の席だったけど、何もなかったろ?」
「それはだな……」
簡単に事の経緯を語る。
授業中、彼女が俺の消しゴムを拾ってくれたこと。
それをきっかけに中休みに話すようになったこと。
彼女が放課後に寄り道したがっていたこと。
……彼氏を欲しがっていた事は、彼女の為に一応伏せておいた。
大体の事を話し終えると、購買の前に辿り着いた。
「で? 付き合うのか?」
「は?」
いや、幾ら何でも話し飛躍し過ぎじゃね??
「朝から女子たちが騒いでたぞ。“奏汰くんと雨宮さんがっ!”って」
女子の声真似っぽく高い声で再現を入れた大地。女子と言う生き物は男女が二人で仲良くしていると直ぐにそういう方向に持っていきたがるな……と、購買の列に並びながら気が重くなる。
「まだ、そういのじゃねぇよ」
「おっ? “まだ”ってことは、その気はあるんだな?」
「そりゃ、だって雨宮さんだぞ?」
言えば「それもそうだ」と大地が笑う。
「お前、他の男子から刺されねぇように気ぃ付けろよ?」
「それが一番怖い」
そう答えた所で、漸く自分の番が来てカツサンドを取るとお金を払う。
「でも、残念だな。雨宮さんにお前のカッコいいところ見せられなくって」
「あ?」
同じタイミングで昼ご飯を手に入れた大地。二人揃って廊下を歩いていると、隣から残念そうな声が響く。
「ほら、お前も中学まではサッカーしてただろ? そのお陰もあって女子にモテてたけど、雨宮さんは奏汰のそういう姿、一度も見てないから」
「……中学の時に俺がモテてた? はっ、冗談やめろ。寧ろ非モテだっただろ。それに、もう昔の話は忘れたな」
中学2年までは俺も大地と同じサッカー部に所属していた。だが試合中に怪我をしてから、何度も同じ場所を痛めるようになり、所謂ドクターストップってやつが出てサッカーは出来なくなった。
「そっか。こんな話して悪かったな」
何処か罰の悪そうな大地に「いーよ。もう気にしてねぇから」と伝える。
「いーなぁ! 俺も彼女欲しい!!」
ぎゅぅぅぅっと俺の首に腕を絡めながら、そんな事を言う親友。
「いや、俺も彼女居ねぇから」
「もうすぐ出来そうなやつが何言ってんだよ?」
「……。」
それも、そうかもしれない。
雨宮さんと付き合う。悪くない。それに、これは今朝感じた事だが、俺も彼女に惹かれつつあるのは事実だ。他の奴らから人気だからとか、それだけじゃない。あの時、ときめいた気がしたのはたぶん嘘じゃないから。
少し満更でもない気がして、自然と笑みがこみ上げできた。
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