第16話 綾奈と大地
「雨宮さん、おはよう」
翌日も俺はめげずに雨宮さんに挨拶したり、声をかけたりした。だが、彼女が返事を返してくれることはない。それどころか、俺が近付くと途端に何処かへ行ってしまう。
俺、雨宮さんから冷たくされてる以前に避けられてる!?
悲しいことかだが、そう思わざるを得ない。
何でだ? とりあえず、この間の放課後にたい焼きを食べた件が切っ掛けには違いない。
女心はさっぱりわかんねぇ!!
と言うわけで、俺は早々に綾奈を頼ることにした。すると、「昼休みでもいい?」と確認があって、いつも大地と昼飯を共にしている中庭に綾奈が来てくれた。
「奏汰、お前に報告がある」
綾奈が俺たちと合流するや否や、大地が真面目な顔をする。
「実はな、俺たち……」
「付き合うことになったの」
大地に被せる形で綾奈が告げた。
ぎゅっと密着して、大地の腕を組む綾奈。俺は驚きで空いた口が塞がらないし、大地は渾身の台詞を取られて「それ、俺が言いたかったのにー」と、残念そうだ。
瞬きを繰り返して「マジ?」と確認する俺に、二人揃った声で「マジ」と返ってくる。
え。俺が綾奈に告白の返事してからまだ一週間ぐらいしか経ってねぇけど?
「展開早くね??」
目を丸くする俺に「それがさぁ……」と綾奈が切り出す。話によると、随分前から大地に俺のことを相談していた綾奈は、俺が綾奈に告白の返事をした翌日にフラれたことを大地に話したらしい。
「で。『だったら、俺にしとけよ。気付いてなかっただろうけど、俺は綾奈のことずっと好きだったんだぜ?』って告った訳」
大地が何気にクサイ台詞を吐いて再現する。そんなこんなで、二人は付き合うことになったと。
嘘だろ。親友と幼なじみが俺の知らない所で短期間のうちにくっつきやがった!
「キュンとしちゃったんだよね〜これが。何ていうの? 今まで見えてなかった気持ちに気付いたって感じ?」
ふふふっと綾奈が嬉しそうに笑う。傷心の俺に比べてこちらの二人は幸せ全開だ。
「幸せそうで良いな……お前ら……」
ハハハ……と、乾いた笑いが溢れる。
コイツら、俺の話し聞く気ねぇだろ。
そう思っていると、「もーっ! 奏汰もこれから雨宮さんとヨリ戻すんでしょ? 一々暗くなるんじゃないわよ。ホラホラ、話し聞いてあげるから」と綾奈が肩を叩いてくる。
急かされる形で俺は渋々、あの日の出来事を話し始めた。
「それは避けられてるわね」
俺の話しを聞き終えると綾奈がそう言う。
「でも、奏汰が言うように、嫌われてる訳じゃないとしたら、何で別れたいなんて言ったんだろうな? それに、何で奏汰を避けたんだ?」
大地の呟きを聞いて「ほら、考えてみて」と綾奈が俺に答えを求めてくる。
「それが分からねぇから、俺は綾奈に相談してんだけど?」
「いいから!!」
言われて考える。
雨宮さんが俺と別れて、それから俺を避けている理由、か。
「避けている理由は気まずいからかだよな。 状況からして、雨宮さんは逃げるように帰って行ったし」
「たぶん、そうだろうね」と綾奈が相槌を打つ。
でも、急に別れたいと言ってきた理由は分からねぇ。
トラックに轢かれそうになって、動揺した程度で俺と別れたいなんて思うだろうか? あの時のことは、もうあまり覚えてねぇけど、俺の助け方がカッコ悪かったとかか?
「……別れたいって言われた理由だけは、やっぱ全っ然分かんねぇ!!」
「問題はそこよ! たぶん、奏汰自身には問題なかったと私は思う」
その言葉に俺と大地は綾奈を見る。
「何でそう思うんだ?」
「前に話したでしょ? ファンクラブのこと」
「あぁ。だが、それとこれに何の関係があるんだよ?」
「あくまで可能性の話だけれど、雨宮さんがファンクラブの子に何か意地悪されたとか……」
「つまり、雨宮さんがいじめられてるってことか?」
「それはわからないけれど、私が雨宮さんをファンクラブに誘ったのはそういう悪意から雨宮さんを守るためでもあったんだよ」
それを聞いた大地が「綾奈は優しいな」と彼女の頭を撫でる。
幸せオーラ全開の二人にリア充め。と、俺は少し憎たらしく思いながら、今言われたことを考えてみる。
確かにいじめられて、それに耐えきれなくて“別れたい”と言ってきた可能はありそうだ。
「どっちにしても、こればっかりは憶測しか出せないから、本人に聞くのが一番早いけど」
綾奈に告白の返事をした時もそうだが、やはり本人に直接聞く他ないようだ。そうなれば、今の俺の意思が揺らがないうちに聞いておきたい。
「じゃあ、聞きに行くか」
宣言してベンチから立ち上がると、綾奈が俺を見上げる。
「え? 今から?」
「おう」
善は急げだ。俺は雨宮さんの元へ駆け出す。
「ちょっ! 奏汰! 待ちなさいよ!!」
その後ろを綾奈が続くと、「えー! 置いてくなよ!」と大地も追いかけてきた。
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