第29話 牽制
一緒に登校してきた俺と紗蘭は、学校に着く前からすれ違う生徒たちの視線を集めていた。
「あの二人、別れたんじゃなかったのか?」
「まさか、ヨリを戻したとか!?」
「俺、雨宮さん狙ってたのに〜!!」
「奏汰くんが雨宮さんと!!」
「ファンクラブのルールはどうなってるの!?」
校門から教室に入るまで、そんな声がチラホラと聞こえてきた。不安そうな紗蘭の手を握り返すと彼女が俺を見る。
「俺がついてる。だから、心配いないよ」
安心させるように微笑むと、少し表情を柔らかくした紗蘭が「うん」と頷いた。
教室のドアをガラリと開けば、俺たちの揃った姿に驚くクラスメイト。そしてそれに気付いた篠田さんが駆け寄ってくる。
「紗蘭ちゃん? 奏汰くん? 何で!?」
驚いた表情の篠田さんが俺たちを交互に見た後、ズイッと紗蘭の顔を覗き込む。
「ミホちゃん、おはよう。あのね、私たち仲直りしたんだ」
「な、仲直り……?」
呟いた篠田さんが俺を見る。
「何で? 私、紗蘭ちゃんの話しは全部私が聞くって言ったよね?」
目を泳がせた彼女が俺を見た。
「あぁ。だけどやっぱり、俺は紗蘭に直接謝りたかったんだ。そうしたら無事に仲直り出来たよ」
ニッコリと俺は笑顔を浮かべる。だけど、紗蘭を欺いている篠田さんに心から笑うことなどできるわけもなく、俺の心は怒りに震えていた。だから、きっと目が笑っていなかったんだろう。
篠田さんがひきつった顔で一歩後ずさった。
「ミホちゃん、色々とありがとう。心配かけてごめんね? 奏汰くんがね、私に謝ってくれたの。それで、奏汰くんが心から私のこと想ってくれてるって、分かったんだ」
そう言って頬を赤く染める紗蘭。そんな彼女を見ると、怒りに震えていた心が少し落ち着いた。
あぁ、俺の彼女はめちゃくちゃ可愛いな。
「そういう訳で、俺たち無事にまた付き合うことになったんだ」
そう宣言して雨宮さんの肩を抱き寄せると、俺はわざと教室中に聞こえる声で話す。
「俺のファンクラブがあるらしいけど、そー言うの迷惑なんだよな。この前はファンクラブの変なルールのせいで紗蘭が傷付いたから、今度紗蘭に何かあったら、いくら俺のことを想ってくれていたとしても、そういう女のコとは一生仲良くできねぇと思うわ」
きっとこれで篠田さんに限らず、紗蘭に悪戯やちょっかいをかけてくる女子は居なくなるだろう。
我ながら良い案だな。
そう自画自賛していると、刺すような視線を感じて、背中がゾクッとした。ちらりとそちらに視線を向けると、紗蘭に気がある男子たちが物凄い形相で俺を睨んでいた。
あ、コレ俺がヤバいヤツだ。
マジで後ろから刺されねぇように気を付けねぇと。
紗蘭と2人揃って隣同士の席に向かう。すると、席に着いた紗蘭が「奏汰くん」と俺を呼ぶ。
「さっきのって、私が悪戯されないためにだよね?」
首を少し傾げて聞いてくる彼女に「あぁ」と頷く。
「それでももし、何かあったら俺に相談してくれ。俺も気付けるように気を付けるけど、俺……自分で思ってるより鈍感みたいだからさ……」
俺は自分にファンクラブがあることを教えてもらうまで全く知らなかったぐらいだ。それに、未来の俺は紗蘭が悪戯をされていたことにすら気づいていなかった実例がある。
「うん。分かった。これからは何かあったら奏汰くんにちゃんと相談する。だから奏汰くんも困ったことがったら私に相談してね?」
思ってもいなかった言葉に「え……」と声が漏れる。
「私じゃあ、頼りないかもだけど、彼女として私も奏汰くんの力になりたいし、頼りにされたいなぁ……って」
「えへへ」と照れる紗蘭の顔は可愛くて、俺にはとても眩しかった。
「分かった。頼りにしてるよ」
頷いた俺の心は暖かい気持ちで一杯だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます