第14話 告白の答え

 大地に相談してから二週間が過ぎた。

 相変わらず雨宮さんは俺に冷たいままだ。


 朝、「おはよう」と挨拶しても、彼女から素っ気ない「おはよう」が返ってくるだけだし、帰りは俺に声を掛けられないようにするためか、終わった瞬間に教室を出ていく。


 そんな雨宮さんだが、篠田さんや他のクラスメイトたちとは普通に話している。それを見ると少し辛かった。それでも、以前より雨宮さんからは笑顔が減ったと思う。何故だろう。俺の勘違いか?


 そして俺はと言うと、まだ幼なじみと話ができていなかった。それでも、今日こそは綾奈と話すと決めて、放課後に帰路を目指す。


 いつもは綾奈の方が俺を待っているが、今日は俺が彼女の家の前で帰りを待つ。待っていると時間が過ぎるのが遅く感じた。綾奈はいつもこんな気持ちで俺を待っていたんだろうか? と、考えていると「あれ? 奏汰?」と、待ち侘びていた人物の声がする。


「よ、よぉ」

「奏汰が私を待ってるなんて珍しいね。どうしたの?」

「綾奈に聞きたいことがあって」


 綾奈が帰ってきたらどう話を切り出そうか……

 ここのところ何度も考えてシュミレーションしてきたことだ。それなのに、いざとなると頭が真っ白になって何から話せばいいか分からなくなる。


「お、お前は……俺のこと、幼なじみじゃなくて男として好きなのか?」


 俺たちの間に少しだけ沈黙が訪れる。


「そ……、っ」

「そ?」


 いつもの綾奈の感じだと、「そんな訳ないでしょ!!」と言われるのが定番だ。そう思っていたのに、聞こえてきたのは「そうだけど……」といつもより控えめな声だった。


「……綾奈」


 少し赤らんだ綾奈の頬がそれを肯定している。


 でも、俺は……


「綾奈の気持ちは嬉しい。でも、俺はやっぱり雨宮さんが好きだ」


 告げると綾奈の表情が歪む。


「そっか。……うんうん。雨宮さん可愛いもんね」


 無理矢理にでも笑おうとする綾奈に心が痛む。

 俺はこれから綾奈をもっと傷付けるかもしれねぇ。それでも聞かないといけない。


「綾奈、お前が俺のファンクラブの会長やってるって本当か?」


 尋ねると彼女が「あぁ……」と声を漏らす。


「そんな時期もあったね」


 時期?


「今は違うのか?」

「たぶん違わないよ。私が奏汰のファンクラブを作った本人だから」

「じゃあ、何でそんな曖昧なこと言うんだよ?」

「一度解散してるの」


 綾奈の話を整理するとこうだ。

 中学生の時に彼女は俺のファンクラブを立ち上げた。だけど、ファンクラブと言っても実態はあってないようなもの。

 会員数が増えるに連れて、会員が把握しづらくなった彼女は卒業の前にファンクラブを解散すると宣言したらしい。


 そして、高校に入学して3ヶ月が過ぎた頃。


『綾奈! 奏汰くんのファンクラブ!! 再開したんだね!! ありがとう!! 私、ずっと待ってたの!!』


 昔、ファンクラブに入っていた同級生が嬉しそうに伝えに来たらしい。


『ねぇ、それ誰から聞いたの?』

『新しくファンクラブに入った子だよ。その子、中学は私たちと違う子だったけど、私たちと同じ中学だった子に誘われたんだって!』


 同級生から新しくファンクラブに入った子を教えてもらった綾奈は、その子に誰からファンクラブに誘われたのか尋ねたらしい。けれど他のクラスの子らしく、顔も名前も覚えていないという。ただ、ファンクラブには“必要最低限以外で奏汰に話しかけるの禁止”というルールがあることと、『会長の横山さんに伝えておくね』とだけ言われたらしい。


「だからね、私も今のファンクラブに誰が入っているのか分からないの。知らない間に再開していて、勝手に広められてたから。これでも私も迷惑してるんだよ? ファンクラブ会長とか恥ずかしいでしょ?」


 なるほど。綾奈を会長に据えたままで勝手にファンクラブを再開させた人物がいるらしい。


「ソイツに心当たりとかねぇの?」

「ない。っていうか、ファンクラブの子なら誰がしててもおかしくない上に、そのファンクラブの子を私が把握できていないから分からないの」

「じゃあ、綾奈が雨宮さんにファンクラブの勧誘したって聞いたけど、あれは違うのか?」


 勝手にファンクラブを再開させた人物がいるのなら、綾奈の名前を使って雨宮さんを勧誘しただけかもしれない。そう考えたが、綾奈は「それは本当」と即座に認めた。


「何でそんなことしたんだよ?」

「それは……ほら、やっぱり奏汰を取られたくなかったから。これで奏汰と雨宮さんの接点が無くなればいいなって。利用しちゃった」


 マジか。

 女子怖ぇ。


「ま、それだけじゃないけどね」と呟いた綾奈。


 他にもまだ理由があるのか? と疑問に思っていると彼女が立ち上がる。


「じゃあそろそろ終わりでいい? こう見えて私、失恋したばっかりなんだよねー」


 明るく振る舞う綾奈にハッとさせられる。


「わ、悪ぃ」

「言っとくけど、これからも今まで通り接してよね? よそよそしい態度なんか取ったら許さないんだから!!」

「……は、はい」



 返事をしておきながら、あれ? 何で俺怒られてんだ? と疑問に思う。


「じゃあ、奏汰は精々雨宮さんとヨリを戻すの頑張ってね。前に奏汰と約束したから、本当に困った時は幼なじみの私が相談に乗ってあげる」


 その言葉に、綾奈に雨宮さんと付き合った報告をした日のことを思い出す。


『何かあったら幼なじみの私が相談に乗ってあげるわ。奏汰は女心とか、分かってなさそうだし』


「おう。ありがとな。綾奈も困った時は、俺が助けてやるからちゃんと言えよ?」


 伝えると彼女は手を振って家の敷地に入っていき、家の中へと消えていった。

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