学部 キキとした天性 (2)使いようによっちゃ危ないったらない

【ここまでの粗筋】

 天然系な主人公「駿河轟」は漸く大学に合格した身。

 充実しきっていた中・高の反動で失敗した大学受験も、同窓の浪人女子「ソウシ」のおかげで何とか乗り越えた。

 進学先の帝國大學では、「面倒」の一言で三度目の「応援」部に入部。そこで同窓の先輩女子「綾瀬」と出会う。

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 部室に着くと、幹部の先輩らしい男子学生が数人座っていた。


「コンチハッ、失礼します。」

「何だ? 輝妃、もう仕込んだのか?」

「ヤケにキレが良いじゃないか。最初から飛ばして教え込むなよ? 息切れするから。」

「煩いわね。此の子、リーダー志望よ。これで、今年の新歓代はバンドとチア負担なんだから、少しは喜びなさいよ!」

「お! 本当か? いやいや、それはどうもごっつあんですな!」

(…一言、何部志望の新人かと、名前を言って挨拶してから、此方にいらっしゃい…)


 綾瀬先輩さんは、そう耳打ちすると、先に奥へと入って行った。


「コンチハッ、失礼します。私、リーダー部志望、新人、駿ー河轟と申ーします。以後、どーーうぞよ・ろ・し・く・お願い申ーし上げます。」

「おうおう、よく仕込まれてる。」

「うんうん、頑張ってな。」

「俺達の自己紹介は、練習の後にするから。」

「ハイッ、どーーーうも有り難う御座居ます。失礼します。」


 先輩方が返答の手を挙げたのを見届けてから、綾瀬先輩の後について団室の奥に進んだ。


「輝妃ーっ、先に行ってるぞ!」

「済ませたら直ぐに行くから。」


 男子の先輩方が団室を出て行く。


「失礼します。」


 入口横で見送った後、


「最初にしては…少し出来すぎの感もあるけど、身に染みついたものだし、仕方ないわよね。アハハ。」

「失礼致しました。」


「じゃあ、これに書いて…。」

「ハイッ、有り難う御座居ます。失礼します。」


「君、私の名前じゃないけど、何か、嬉々としているわね。」

「有り難う御座居ます。私の天性かもしれません。」

「あはは、天性?」

「失礼致しました。これから全力で努力致します。」

「良いわよ、良いわよ。君も言った通り、身体も鈍ってるんだから、最初からあまり力まずにファイトね。」

「ハイッ、どうも有り難う御座居ます。失礼します。」


「はい、有り難う、これで良いわ。じゃあ、練習に戻りましょう。」

「ハイッ、有り難う御座居ます。失礼致しました。」


 部室の扉を閉め、外に出る。

 綾瀬先輩はスーツの儘だ。


「失礼します。お尋ねしてもよろしいでしょうか。」

「何?」

「失礼ながら、綾瀬先輩はご準備はよろしいのでしょうか?」

「ああ、今日は、チア幹部はミーティングだけだから。」

「有り難う御座居ます。」


「げ! やだぁ、靴に泥が付いちゃった!」

「失礼します。どうぞお乗せ下さい。」


 綾瀬先輩の前に回り込んで膝をつき、其の上にハンカチを敷くと、先輩の汚れた靴先を載せるように挨拶した。


「あら、有り難う。」

「失礼します。」


 ティッシュを取り出して、靴の汚れを落とす。


「失礼致しました。」

「駿河?」

「ハイッ。」

「其のティッシュ、食べられる?」

「どうも有り難う御座居ます。失礼致します。」


 僕はティッシュを丸めて口の中に放り込んだ。


「バカッ! 冗談よ! 冗談だってば。此処では靴を拭く必要もなければ、ティッシュを食べる必要もないわよ。そう言われたとしても冗談だから、真に受けることないわ。」

「ハイッ、どうも有り難う御座居ます。」

「まったく…使いようによっちゃ危ないったらないわね もう…。」

「どうも失礼致しました。」

「此処では上級生の指示があっても、一旦必ず自分の頭で考えなさい。分かったわね。あと、失礼しますも、今の三割引くらいで良いから。」

「ハイッ。有難うございます。」


 暫く無言の儘先輩の後に続く。


「君、一中時代は辛かった?」

「失礼します。大変充実しておりました。」

「そうよね、あれだけ竹刀で叩かれればね。」

「大変僭越ながら、竹刀、鉄拳は、私の期で廃止致しました。」


「あらそう? まあ、それは、よく思い切ったわね。」

「それなりの荒れも御座居ました。」

「で? 定期戦の勝敗は?」

「総合優勝させて戴きました。」

「よくやったわね。誉めてあげる。」

「どうも有り難う御座居ます。」


「此の後、リーダー部に引き継いだら、普段の活動はリーダー責任者が長だけど、新人のよろず相談窓口は、新人責任者の私だから、何かあればいつでも相談なさい。」

「ハイッ、どうも有り難う御座居ます。失礼します。」

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