学部 記憶 (4)好きこのんで一緒に居る訳じゃあない
【ここまでの粗筋】
天然系な主人公「駿河轟」は、様々な女子に援けられながら波風ありながらも充実した日々を過ごしてきた。
高校二年以来、遠く離れていた元交際相手のベーデと、親友のエリーとは、大学二年で共に再会。空白の三年半を越えて彼女達とどう接するか、戸惑う日々。
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「私、少し安心シマシタ。」
「何が? 日本の生活?」
「Nein, Goがきちんと学生生活をしていることデス。」
「れれ、
午前中の講義が終わって、紙コップ片手に学生ホールのベンチに並んで座って居ると、エリーがホッとした様子で口を開いた。
「Österreichに戻るとき、ソレハソレハ心配デシタ。」
「ソレハソレハ、ご心配をおかけ…アイタッ」
エリーの拳骨が右のこめかみに飛んできた。
「人がドレダケ心配したと思ってんデスカ!」
「…ごめんなさい…。」
こんな光景が僕とエリーにとっては
短時間でそれほどまでに親しくなるものでもなく(
「Go?」
「ん?」
「
場所を屋外に移して、弱まってきた初冬の日差しでぬくぬくとしていると、憂鬱そうに彼女が言った。
彼女が愚痴をこぼすときは、大抵煙草に火を点ける。
「何て?」
僕は彼女から勧められた一本を取った。
「
「アッハッハ、それは逆だろ。アタッ…! 誰から教わった? 鼻を叩くの、ベーデだろ!」
「アハハ、ホントに効果
「
「ウソ! 何処? ゴメナサイ、ゴメナサイ、どうしよう…。」
「ウソだよ~…イテテテテ…。」
鼻を鳴らしている彼女は渾身の指力で額をデコピンしてきた。
「痛てて…それで? 君は何て言ったの?」
「脅されてたら、助けて呉れるんですか? って聞きマシタ。」
「そしたら何だって?」
「こそこそ逃げて行きマシタ。まったくだらしない。私から見ると、ああいう男の方が余っ程アブナイ。」
(そういうことを言うなら、軽々しく人を叩くなって…。)
「下心スケスケで、みっともないデスね。」
「正直で良いんじゃないの?
二人して煙草の火を消し、芝生の上に寝っ転がると、真上からエリーがヌッと覗いてきた。
「本当にソウ思ってマスか?」
「何をさ?」
「正直で良い、って。」
「彼等の目的からすれば、直球で迷いもなければ無駄もなくて良いんじゃない?」
「狼の群に子羊が囲まれているトイウのに、よく其様な呑気な観測をしていられマスね。」
「それは逆だもの。狼の群を前にした有能な猟師だろ? 機関銃乱射で一網打尽 …!」
「オホーッ…これは此方も痛いデスネ…これは駄目だわ、使えナイワ…。」
彼女が頭突きに後悔している。
「何を言い度いの?」
「少しは心配シナサイってコトデス。」
「誰を?」
「私ヲ!」
「何でさ?」
「…!」
エリーがまた上から覗き込んでいる。下を見ているからなのか、昂揚しているからなのか、顔が紅潮している。
「フワックシッ!」
僕はじっとして様子を見る心算だったのだけれど、予期せず大きなくしゃみが出て了った。
「ベエエェ! 何するデスカ!」
「アハハ、ごめん。」
起きあがって彼女にハンカチを渡す。
「ヒイィ…くしゃみをする前には自分の口を押さえるとかして下サイ!」
「だって、君の髪の毛が鼻を擽ったから。」
「ン…もう…最低! ハンカチは貸しておいてネ!」
彼女は顔と服を拭きながら日本文化の講義に出かけて了った。
* * *
「ねぇ、駿河君はさぁ。」
「はい、何?」
「留学生と付き合ってんの?」
彼女の容姿はかなり目立つのか、応援部の中でも、《このこと》について女子から尋ねられことるは少なくなかった。
別段、恋愛禁忌もなかったので、誰が誰と付き合おうと、それほど興味の的になることはなかったのに、矢張り
「どうしてさ?」
「いっつも一緒に居るからよ。」
「俺は別に彼女とだけ一緒に居る訳じゃないけど。」
「其の反対で、彼女が貴方と
成る程、そういう理屈かと納得した。今日は吹奏楽、チアの女の子三人がかりで代わる代わるの詰問だ。
「何か不可ないか?」
「いや別に不可ないとかじゃなくて、どうなのかな? って思ったの。」
「何が?」
「男の子たちは羨ましがってるけど。」
「けど?」
「
「つまり俺が邪魔だと?」
「そういうことね。」
「別に俺から好きこのんで一緒に居る訳じゃあないけどね。頭下げて頼み込んだわけでもなし。」
「
「どうなんだろ?」
「ああしていると、
「そう? じゃあそうなんじゃないの?」
「そうじゃないの? どっちなの?」
「君達はさ、三人で寄って集ってそれを確認したところでどうしようって訳?」
「否々、ただ興味本位なだけで。ねぇ。」
「どちらに興味本位? 俺? 彼女?」
「両方!」
「良いよ、全員で声を揃えて言わなくても。」
「よく海外の人と話がもつわね。」
「何で? 普通に話していれば良いだろ?」
「そういう姿勢でよ。
「よく殴られるけど、別に気不可くはならないなぁ。」
「逆じゃなくて?」
「逆じゃないよ。俺が殴られるねぇ。」
「なんで?」
「だから、三人揃って言うなよ。…気に入らないからじゃない?」
「それでどっか行っちゃったりしないの?」
「行っちゃったり、行っちゃわなかったり。」
「貴方達、一体何?」
「何だろう?」
「もう良いわ。」
流石の知りたがりの女子たちも、僕ですら理解できない関係には匙を投げた。
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