第13話 朝の訓練場

 そして、翌朝。


 俺とエリスは屋外の施設にいた。


 人を模したであろう木の人形や、モンスターを模した大きな木の模型。


 お守りだのでかい岩だの、なんだかいろんなものが置いてある。



「ここが訓練場なのか」


「はい。聖女はここで法術や守護者の訓練をするんです。今日は他には誰も使っていないみたいですね」



 この訓練場の俺とエリスの他に訓練をしている人間はいなかった。


 代わりに、



「早いなエリス。私の方が遅れてしまった」



 後ろからやってきたのはディアナだった。


 黒い髪をどうやっているのか分からない飾り結びにしている。


 いつものように気品に満ちた雰囲気だった。



「おはようございます、ディアナお姉様」


「おはよう。調子は問題ないか?」


「はい、ゆっくり休みましたから」



 昨日はさすがに女神は現れなかった。2日連続で安眠を妨害されたらこの日和見主義の俺でもキレるところだ。



「良いだろう。さて、大体察しはついていると思うが」


「はい、ディアナお姉様は私に守護者の訓練をしてくださるのですよね」


「その通りだ。今回の任務、標的は守護者を使う聖人だ。お前が戦った二つ名のモンスターも大概だが、守護者を相手にするのはまた別だ」


「はい、心得ています」



 今回の任務の標的、エンリケ・オーハイムは聖人、守護者を使う人間だ。つまり、俺たちが望むのは守護者対守護者の戦いということだ。


 つまり、ス○ンドバトルだ。


 スライムやライカンスロープとの戦いとはわけが違うだろう。



「だが、お前には実戦経験が足りない。昨日も言ったがな。守護者対守護者の戦いは元より、そもそも守護者での戦いの経験が足りていない」


「はい、自分でもわかっています」



 俺たちの戦闘はまだスライムとライカンスロープだけなのだから。



「お前は今回直接戦闘することはないと考えて良い。だが、絶対ないとは限らない。なにかの不確定要素でエンリケがお前に前に現れる可能性はゼロじゃない。だから、お前にはまず、自分の身を守れるだけの力をつけてもらう」



 そう言うと、ディアナは聖句を唱える。



「女神の使いよ、我を守れ。出ろ、カリギュラ」



 今までディアナの後ろに控えていた重装兵のような守護者が実体化した。


 戦闘態勢ということだ。


 白い鎧に戦鎚を持った守護者。なんかすごく強そうだ。



「まず、軽くやり合うぞ。お前も守護者を実体化しろ」


「分かりました。女神の使いよ、私を守れ。マコト様!」



 俺の体に力が満ちる。エリスから祈りの力が流れ込み、エネルギーがみなぎるのを感じた。


 俺の体も実体化したのだ。


 これであの鎧の守護者と戦うということか。


 なんか緊張してきた。相手は聖女の頂点というディアナとその守護者だ。うまく戦えるだろうか。なんか品定めされてるようで体がこわばる。


 だが、訓練なんだから頑張らなくては。



「エリス、そっちから来い。遠慮はいならないぞ。本気でも良い」



 ディアナは挑発するように手をくいくいとやった。


 俺の射程範囲は大体2mといったところ。ディアナとは5mほどは離れている。



「分かりました。いかせていたただきます。マコト様!」


「おう!」



 エリスは走って間合いを詰めた。俺のパンチが届く距離まで。



「ふむ」



 ディアナはそれを黙って受け入れた。


 射程に入り、俺は鎧の守護者、カリギュラにとりあえず1発パンチを打ち込んだ。



「ウラァッ!!」



 もう、ウラァって言うのが口癖になっていた。なぜだか、どうしてもこの口調になる。これも女神のせいなのか。


 とりあえず様子見のほどほどの右ストレート。


 カリギュラはそれをハンマーの柄で受けた。



「ほぅ、これは重い」



 カリギュラはそのままハンマーを振り抜き、俺を吹き飛ばす。


 だが、問題ない。俺はそのままそのハンマーを受け止めた。両手で掴んで動きを止める。



「む、やるな」



 ディアナは少し予想外だったようだ。



「マコト様!」


「ウラァ!! ウラウラウラウラウラァッ!!」



 そして、紛い物のジョ○ョのラッシュを叩き込む。もう、どうしても口からウラウラと声が出てしまう。もう受け入れるしかない。


 カリギュラはそれをモロに受ける。



「むぅ、これは想像以上に....!」



 そして、吹っ飛ばされたカリギュラと一緒にディアナも飛ぶ。ディアナは軽く受け身を取って立て直す。


 俺は体に力がみなぎっているのを感じていた。


 ライカンスロープ戦の後からずっとだ。


 あそこでブチ切れてからだろうか。


 その前にまではなんだか頼りなかった感覚だったが、もう違うのだ。


 どうやってパンチを打てば良いのか分かるし、どうやって攻撃を受ければ良いのかもわかる。相手の動きもはっきり見えるし、それに対してどうすれば良いのかも考えなくても分かるのだ。


 人間だった時には絶対なかった感覚だ。


 俺はこの体での戦い方をはっきり理解していた。



「なるほど。ある程度は分かった」


「どうでしょうかディアナお姉様」



 この何回かのやり取りでディアナは何を分かったのか。



「とりあえず、お前のマコト様は今現界している守護者の中でも最上位の強さだろうことは分かった」



 ディアナは言った。

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