転生したら聖女の守護霊だった〜俺を精霊としか思ってない聖女の行動が危なっかしくて困る〜

プロローグ

「こう言う感じでいいですかね」



 女神はそう言った。


 ここは世界の世界のハザマ、俺の世界と異世界との間の領域だった。


 俺は車にはねられ死亡したらしい。


 そして気がつけばこのいかめしい姿をした金髪の女神の前に立っていたのだ。



「どういう感じでしょうか」



 俺は問うた。


 なにも分からなかったからだ。


 女神はどうやら俺を異世界に転生させるつもりらしい。


 俺もブームに乗っかる時が来たようだ。


 女神はパラメーター的なやつをいじくり続け、俺を何者かに転生させようとしていた。



「それは転生してからのお楽しみですよ。つまらないでしょう、先に知ってると」


「不安です、知らないと」



 俺は素直な感想を口にした。



「志乃田マコト。年齢32歳。独身の会社員。収入は平均以下。役職もなし」



 婚活会場かなにかか。俺の寂しい人生を口にしないでほしい。


 確かに俺はうらぶれた会社員だった。


 中小企業『松本鉄工』、そこでひたすらいろんなものに使う鉄材を生産する毎日。給料は安い、休みはない、サービス残業のオンパレード。休日は疲れてベッドでスマホを見るだけ。毎日ただただ疲れていただけの俺の日常。


 いやぁ、ひどい会社だった。


 もう、死んだから関係ないのだが。



「さて、第一の人生お疲れ様。おつおつ」


「軽い感じで言わないでください。一応センシティブな話題でしょう」


「そして、ようこそ第二の人生へ。これからあなたを待ち受けるのは苦難、困難、辛苦....大体同じ意味か。面倒になってきましたね」



 なんなんだこの適当な女神は。



「まぁ、あれです。なにはともあれ。行ったらわかるので。よろしく」


「それ、行っても分からないやつじゃ....」



 そこで俺の意識は一旦切れた。











 そして俺の意識は再び覚醒した。


 目の前は白いモヤがかかってよく見えなかった。


 そしてやけに暖かい。


 水の音が響いているところを見るとどうやら水場のようだ。


 立ちこめる霧、暖かい空気、水場、なにかに思い至りそうになったが覚醒直後の頭ではいまいちはっきりしない。


 俺は周囲の状況を確認する。


 すると、ごく近くに人の気配があるのが分かった。というかほぼ目の前だった。


 そこにいた人は美しい金色の長髪で、背丈は小さめ。そして、その足から腰にかけては滑らかな曲線を描いており、その先には豊かな丘がふたつ。



「うわぁあああああ!!!!」



 俺は叫んだ。


 そこにいたのは一糸まとわぬ姿の少女だった。


 というか、ここは風呂場だった。



「え?」



 少女が俺の声に驚き振り返った。


 かなりの美人だった。豊かな体つきのかなりの美少女だった。


 しかし、そんなことを気にしている場合ではなかった。


 これは終わりだった。


 なぜだか俺は転生して早々に女風呂におり、そしてがっつり入浴者と鉢合わせたらしいのだ。


 なぜなのか。あの女神俺を地獄に落とそうとしているだけなのか。そんなに俺は罪深かったのか。


 とにかくいろんなことが頭を巡ったが、とにもかくにも俺の第二の人生は早々に傷だらけになってしまうようだった。



「そんな....」



 少女は驚いていた。


 しかし、その表情は嫌悪ではなかった。


 いや、むしろ喜んでいた。


 少女は笑っていた。


 なぜなのか俺にはまったく分からない。


 分からないがあまりにも目のやり場に困るため俺は必死に視線を外した。



「やったやった! ようやく現れてくださったんですね! 守護者さま!!!!」



 少女は大喜びで言った。


 なんのことなのか分からない。


 分からないが少女の向こうの鏡に俺の姿は映っていなかったのだった。

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