第32話 聖女と守護者と戴冠式
「第6聖女エリス。あなたの健闘を讃え、この冠を授けます」
「身に余る光栄です。感謝いたします。王妃アルテミス様」
俺の目の前でエリスは冠を授けられていた。
目の前にいるのはリスキル連合王国の王妃アルテミスだった。
王族も王族、この国の権力の頂点。
そんな人間がエリスに冠を授けている。
前のライカンスロープの時の比ではない。
ここは城の大広間。
俺たちは王城に招かれ、そこで王族、教会関係者のみならず、傍聴の一般人たちの囲まれ盛大にその働きを讃えられていた。
無論、エンリケ・オーハイムの捕縛に関してのことだ。
エンリケと直接戦い、打ち倒し、そして拘束した俺たちはその働きを大いに認められていた。
あの日から早1週間。
俺たちはその間にいろんな人に呼びつけられ、いろんな人と難しい話をする毎日だった。
とにかく、今回成し遂げたことは大きな成果だったらしい。
国際的な重犯罪者の捕縛。
この国だけの話ではない。周辺諸国全てで抱えていた共通の問題を俺たちは解決したのだ。
「これからも働きを期待していますよ。第6聖女エリス」
「はい、ご期待に添えるように励みます」
エリスは笑顔でアルテミスに返した。
こういうところは器が大きいと思う。相手が誰でもエリスの笑顔は変わらないのだ。
地下でエンリケを倒し、法術で拘束して地上に出るとそこにはディアナだけがいた。
すさまじい速度でモンスターの群れを倒し、民間人の安全を確保し、すぐに駆けつけたのだ。
口では「倒しても良い」などと発破をかけていたが、やはりすごく心配だったのだろう。
息を荒げて、全力でここに駆けつけたのが分かった。
「やったんだな、エリス」
「はい、ディアナお姉様。私とマコト様の敵ではありませんでした」
エリスはえっへんとその胸を張った。
強がりでしかなかったが、それを指摘する野暮はしなかった。
今エリスは存分にかっこつけなくては。
「ははは、本当に立派になったな。エリス」
「ええ、ディアナお姉様やみなさん、そしてマコト様のおかげです。私は幸せものですよ」
エリスはにっこり笑って言った。
そこに他意は欠けらもない。純粋な本心のようだ。
自分がこうしてエンリケを倒せたのは、自分をここまで支えてくれた他のみんなのおかげだと。
「ああ、本当に。本当に良かった。誇りに思うぞエリス」
「ありがとうございます。ディアナお姉様」
そうして2人はお互いを抱き合った。
仲の良い姉妹の抱擁。
一方がずっと気にかけていて、もう一方は追いつこうとしゃにむに頑張ってきた。
その道のりの最前線の光景だった。
遠くから他のみんながやってくる。
全てのモンスターを倒し、民間人も無事なのだろう。
そうして、シュレイグでの作戦は無事に終わったのだ。
「おめでとう、エリス」
エリスのために用意された華やかな椅子の横にはディアナが居た。
エリスは自分が座ってディアナが立っていることに「落ち着かない」と言っていたが、ディアナが「主役はお前なのだから」と言って納得させていた。
「なんだかむず痒いし、現実感がありません。本当に私王妃様に働きを認められたんですよね」
「当たり前だろう。お前の目の前にいたのは間違いなく王妃様だし、お前の頭に乗っているのは間違いなく『讃美の冠』だ」
「なんだか、本当にすごいことをやったんですねぇ」
「なにを関心してるんだ。お前自身の話だぞ」
エリスは全然現実感がないらしく、なんだか間抜けな言葉を繰り返していた。
だが、仕方ない。
この前まで聖女見習いだったのに、今やこうして王妃に祝福されているのだから。
一番何が起きているのか分からないのはエリスなのだろう。
目の前では王妃がなにやらみんなに向かって朗々とエリスを讃える言葉を述べていた。
「マコト様も、ありがとうございます」
「いやいや、ただ戦っただけだ」
ディアナは律儀に俺にも声をかけてくる。
ただ俺は与えられた力を、訓練の通りに振るっただけだ。そんなに大したことはしていない。
この人間として戦った2人ほどのことじゃない。
「さて、だがなエリス。『讃美の冠』なら私は4つもらっている」
「え?」
「まだ私の方が多いな」
そして、ディアナはニヤニヤしながら言っていた。
これは、ディアナはエリスを煽っている。
それも嫉妬とかではなく、ただ純粋に競争心として。
ディアナはエリスを守るべき妹ではなく、対等なライバルとして認めたということなのか。
「ふふ、追いついて見せますよ。ディアナお姉様。頑張りましょう! マコト様」
「もちろんだ」
奮戦して追いついてやる。エリスの頑張りならすぐだ。
「ああ、楽しみにしている。ちなみにアルメア様は18個だ。正直私は追いつくのを諦めている」
「そ、そんな...桁が違いすぎますよ...」
上には上がいるらしい。
王族からもらえる重要アイテムをそんなバーゲンセールみたいにもらって良いものなのか。
やはりアルメアは次元が違うのか。
「ふふ、おめでとう、エリス」
そして、ディアナはシュレイグの時以来、再びエリスを讃えたのだった。
「はい、ありがとうございます。ディアナお姉様」
そして、エリスもシュレイグの時と同じ言葉を同じ笑顔で言ったのだった。
そして、俺はそれを上からそれっぽい顔で見下ろしていた。
内心では満面のほっこり顔で。
俺はこうして、この姉妹がお互いを認め合うところに一緒にいられて良かった。
なんだかんだ、守護霊としてこうして歩む第二の生に俺は満足していた。
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