第14話 守護者の戦い
「上位の守護者? 俺が!?」
思わず俺は言ってしまった。人見知りも忘れて言ってしまった。
「ええ、あなたは間違いなく今のこの国の守護者の中でも屈指の強さです。自覚はありませんでしたか」
「あ、あんまり」
ディアナほどの人間がかしこまって話してくるのはかなりの違和感があるが仕方がない。彼女たち聖女にとって俺はうやまうべき信仰の対象なのだから。中身が32歳のおじさんとは知らないのだから。
それにしても俺の強さはそんなになのか。
「や、やっぱりですか。私もなんだかとても強いとは思っていたんですけど」
「エリスは気づいていたか」
「はい、さすがに。私程度の聖女が初めての任務で二つ名持ちのモンスターを倒せるなんてあり得ません。なら、マコト様がとてつもなく強いということになるのが必然です」
「エリスが弱いということはないとは思うが、確かに初戦で二つ名持ちを討ち取る聖女はそうはいない。それも秘蹟もなしにただ殴って倒したと言うじゃないか。それはマコト様の守護者としての基本能力が段違いだからだ」
「そうだったのか」
確かにパンチ1発で地面を砕けるのはすごいな、俺は精霊なんだなとしみじみ思っていたが。
というか、ライカンスロープ戦でブチ切れてからパワーだけじゃない、感覚の方もかなり鋭くなっている。
なんか、なにもかも分かるなと思っていたが、どうやらこれが強いということなのかもしれない。
「おそらく、近距離で真っ向勝負のぶつかり合いをしてマコト様と張り合える守護者はこの国には3体といったところか。少なくとも私のカリギュラでは無理だ。今戦って分かった」
「ディアナお姉様のカリギュラ様でも無理なんですか!?」
「勘違いするなエリス。カリギュラは守護者としての能力は並程度だ。それでも私が一線で活躍できるのは努力と工夫を重ねているからに過ぎない」
この国で俺と近距離戦出来るのは3体。ということは近距離での殴り合いならトップ5入りしてるのか俺は。
だが、それは近距離での話で....、
「じゃ、じゃあ。マコト様は顕現範囲に相手を入れさえすればほぼ負けることはないということですか」
「そうなるな。だが、お前の言う通りだ。それは相手を顕現範囲に入れればの話だ」
「え?」
エリスは疑問の声を上げる。
「はっきり言おう。私は100回やっても100回お前たちに勝てる」
「そ、それはもちろん。私なんかがディアナお姉様に勝てるとは...」
「いや、私でなくとも私と同じように戦えば結果は同じだ。エリス、少し離れろ」
エリスと俺はディアナに言われるように距離を取った。
「カリギュラ」
ディアナが言うとカリギュラがハンマーを振り上げた。
それからディアナが腕を振る。
すると足元の地面が光り、そこからボコボコと湧き立つものがあった。それは金属の塊だった。法術で地面から金属を精製したのか。
そしてそれは地面から離れて、空中に浮かび上がった。
ゴルフボールくらいのたくさんの金属の塊がひと塊になって浮かび、それを、
「撃ち抜け!」
カリギュラがハンマーで撃ち抜いた。
すると、金属の塊はまるで散弾銃のようにぶっ放され、あたり一帯を吹き飛ばした。
木の人形や、訓練用に器具が粉々になる。
「私はこれを続けているだけでお前たちは近づけない」
ディアナはそして私たちに向き直った。
「な、なるほど...」
エリスがうなずくと言うことはエリスにはあれに対処する術はないということだった。
「お前の法術と聖女の外套ならあれを防ぐことは出来るだろう。だが、近づくことも出来ない。外套で防げるのは一度。そして、物理攻撃を防ぐ法術は燃費が悪い。金属を抽出する法術よりずっとな。いずれ魔力切れで私が勝つ」
ディアナの法術に対してそれを守る法術の方が使う魔力が多い、だからいずれその差でエリスが先に魔力切れをして詰みになるということか。
つまり、エリスはディアナに近づけない。
顕現範囲に入らないと俺はパンチひとつ撃てない。
つまり、俺はその戦いにおいてなにも出来ないということになる。
俺が近距離戦で最強クラスの守護者でもなんの意味もないということだ。
「マコト様は間違いなくトップクラスの守護者だが、顕現範囲が狭いという弱点がある。確か2ラーズといったところだったな」
「はい」
俺の感覚だと2mぐらいだから1ラーズ1mといった感じか。
「そこに相手を入れればほぼお前の勝ちだ。だが、入れなければ逆に苦しい戦いになる。そして、守護者同士の戦いとはそこが重要になる」
「つまり、私に足りないのは相手に近づく術ということですか」
「その通りだ」
さきほどはディアナは俺たちの実力を見るためにわざと間合いの中に入ったのか。
本当の戦いになったらディアナは絶対俺たちの顕現範囲に入らないのだろう。勝てないと分かっているのだからなおさらだ。
ライカンスロープも自分から襲いかかることで自分から顕現範囲に入ってきた。だから俺の力が十分発揮された。
だが、相手が人間で、守護者の戦いを理解しているならこうはいかないということなのだろう。
ディアナは自分の守護者は強くないと言いながら、法術との組み合わせで絶対的に有利な状況を作って見せた。
どうやら守護者の戦いというのは『守護者が強い』だけで勝てるほど甘くはないようだ。
「私ではダメなのでしょうか...」
エリスが弱々しい声で言った。
確かに。今俺たちはディアナに聖女としての実力の違いを見せつけられたのだ。自信を失うのも無理はない。
ディアナは法術で粉々になった訓練用具を治しながらエリスを見る。
「バカを言うなエリス。そのための訓練だ。お前は今から強くなるんだよ」
「.......!! はい! ディアナお姉様!!」
ディアナの言葉にエリスは顔を上げ、力強く言った。
それはそうだ。エリスはまだ聖女になりたて。実力不足は当然で。でも、逆に言えば伸び代だらけということだ。
仕事だって始めはできないが、少しずつ上達してできるようになるのだ。俺の生前の会社での新人時代も散々だった....。
とにかく、エリスが頑張るなら俺も頑張らなくては。
そうして、シュレイグでの任務に向けた、ディアナの特訓が始まったのだった。
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