第15話 1日の終わりと聖女という道のり
「今日は疲れましたね」
「俺よりエリスの方が大変だ」
「ふふ、ありがとうございます。マコト様」
エリスはそう言って微笑む。
おそらく微笑んでいる。例の如く風呂場であり、俺はまたスタ○ドっぽいポーズをしながら目を硬く閉じて浮遊している。
もはや慣れたものだ。この異常な状況にも。
なにも思わないということはないが、目を瞑っているかぎり何もありはしないのだから。
「守護者の戦いというのは奥深いんだな」
「そうですね。私も今までディアナお姉様や、他の聖女の先輩方の戦いを見てきましたけど、自分でやるとなるとやっぱり難しかったです」
「見るのとやるのは大違いだからな。やって初めて分からないことが分かるというか」
「本当にそうですね」
おそらくエリスは苦笑していた。
やらないと分からないことさえ分からない。
今、エリスは間違いなく聖女として成長しているのだ。
「これから任務まで訓練の毎日だな」
「はい。ディアナお姉様には感謝しないと」
シュレイグでの任務は2週間後。エリスはそれまで任務はなかった。
先のライカンスロープとの戦いの疲れを癒すようにとの大神官様の計らいがあったのだ。そして、その時間を使ってシュレイグでの任務に備えるようにとのことだった。
なので、シュレイグでの任務まで、俺とエリスは休息を交えつつディアナに桂古をつけてみらうことになった。
ディアナが言った、いかに相手に近づくかという方法の訓練。そして、守護者同士の戦い方。俺とエリスのコンビネーション。そして、エリス自身の法術の訓練。
全てをこの2週間でこなしていくことになる。
「やっぱり、ディアナお姉様はすごいです。あんなにうまくカリギュラ様と連携して、あんなにうまく戦える」
「本人は守護者も自分もそこまで強くないと言っていたな」
ディアナは自分たちの能力自体は決して高くないと言っていた。
「そばで見ていた私からすれば十分すごいんですけど、ディアナお姉様本人はそう思ってはいないようです。確かに全体で見れば守護者様にもいろいろおられますから」
「つまり、ディアナは純粋な能力以外の部分で結果を出しているのか」
「はい、以前聞いたことですが、ディアナお姉様は自分のポテンシャルとカリギュラ様のポテンシャルを完全に引き出しているのだそうです」
「ほほぉ」
「そして、その能力を引き出した自身とカリギュラ様の連携を完璧にこなす。アルメア様が圧倒的守護者の力で結果を残しているなら、ディアナお姉様は自分たちの能力を100%引き出し試行錯誤することで結果を残している。ディアナお姉様は努力の人なんです」
「なるほどぉ」
アルメアが生まれついた才能で結果を残しているのに大して、ディアナは地道な努力と工夫によって結界を出しているのか。天才と秀才みたいな2人なのかもしれない。聖女の顔と言われる2人だがその性質は真逆なようだ。
確かに、あんな風に法術と守護者の連携を考えるのは大変だろう。あのあともディアナはいくつもそういった連携を見せてくれた。それは自身の能力とカリギュラの能力を深く理解しないとできないことだ。
試行錯誤、努力、ディアナがああして一流の聖女になるために積み上げたものは並大抵のではなかったに違いない。
本当にすごい人間なようだ。
生前なら関わることさえなかっただろう。社会のすみっこであくせく生きていた俺みたいなやつとは。
「負けてられません! 私もディアナお姉様に食らいついていかないと! もう私も聖女ですから!」
おそらくガッツポーズをしながらエリスは言った。
エリスはそんなディアナについていこうとやる気まんまんだった。
俺なら住む世界が違うとすぐに壁を作ってしまうところだ。
「エリスは頑張り屋だな」
「そ、そんなじゃないですよ!」
「いや、あんなに大変な訓練も一生懸命やるしな。偉いと思うよ」
「あ、ありがとうございます」
恥ずかしかったのか、エリスがぶくぶくと顔を沈めるのが分かった。見えないが。
生前ならこんな頑張る人に関わることさえなかったろう。
だが、俺は今守護者でエリスは主だ。
エリスが頑張るなら俺だって頑張らないといけない。
シュレイグの任務を成功させなくてはならないのだから。
「あ、そうだ。明日はおやすみですね」
「ん? そうなのか?」
「はい、明日は日曜ですから。ディアナお姉様も訓練は休みだと言っておられました」
日曜日という概念がこの世界にもあったのか。そういえば、壁にかかっていたカレンダーもなんの違和感もない生前見たのと同じものだった気がする。
あの女神も7日で世界を作ったことになっているのだろうか。
「マコト様! 明日は少し街で息抜きをしませんか?」
「息抜き?」
「はい! と言ってもただ街をぶらりと回るだけなんですけど。マコト様にも私の街を見ていただきたいんです!」
「なるほど。構わないぞ」
休日に街に出て遊ぶ。生前の世界もこの世界も変わらぬ過ごし方のようだ。
ちょっとこの世界にも興味が湧いているしちょうど良かった。こんなファンタジーな街を歩き回るなんて、まるでゲームの中に入ったようじゃないか。
どんどんワクワクしてきたぞ。
「良かった! なら、明日は街で過ごしましょう!」
おそらくエリスは満面の笑みで言った。
かくして、明日の予定は決まったのだった。
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