第37話 女冒険者イリーナ
「そんなに危なそうにも見えなかったがつい助太刀してしまった。許すがいい」
「い! いえいえ! 苦戦していたところだったので、助けていただけて助かりました!」
エリスと戦士の女はそんな感じで会話していた。
エリスはぺこぺこ頭を下げている。
女戦士の方は戦士らしい快活な感じだった。
銀の長髪、整った顔立ち、そして軽めの鎧姿。歳のころはエリスより少し上といったところだろうか。
10代後半と言われれば納得する見ためだった。
「それにしてもなんでこんな街道に? ここはモンスターが危険なことで有名だが。見たところ冒険者じゃないな。もしや...」
「え、ええと! これでも聖女をやってます」
「ああ、なるほど。後ろのは君の守護者というわけか」
「マコト様が見えるんですか?」
「これでも魔法も扱えるからな。守護者にしては特徴的な見た目だが」
ほほぅとばかりに女は俺をまじまじ見てくる。
しかし、俺は目のやり場に若干困る。
なにせ女の胸にあたる鎧の部分はバッチリパージされており、これでもかと豊かな胸元があらわだったからだ。
なんなんだろう。ファンタジーとかでこういう鎧を着ているキャラをよく見るが、これ防御力低くないか?
1番守らないとならない胸が丸出しってどうなんだ。
「では、聖女の修行というわけか?」
「い、いえ! 届け物を配達する任務なんです! 封書をアルバ岬に住んでる賢者様に届ける任務で」
「ははぁ、あの偏屈にか。それは大変な任務だな」
「賢者様を知っているんですか!?」
「ある程度はな。そこまで詳しいわけでもないが。アルバ岬に住んでいるのは良く知っている」
「す、すごい! 滅多に俗世と関わらないって聞いてますけど」
「まぁ、相当な偏屈だからなぁ」
女は苦笑いをしていた。
なんとこの女はアーフィスの知人だったのか。
話しぶりではそこまで深い仲でもなさそうだが、顔見知り程度ではあるんだろう。
「あ、挨拶が遅れました。私聖女のエリスです。こっちは守護者のマコト様です」
「ほぅ! 君たちがあの噂に名高いエリスとマコトか。すごい有名人じゃなかったか」
「ちょ、ちょっとです!」
エリスは恥ずかしそうに言った。有名人になったことにまだ慣れていないエリスなのだった。
「私はイリーナ。パーナルの生まれでこの国に来てクレシア街道でモンスターを狩っている」
「パーナル! ずいぶん遠くですね!」
確か、リスキルがある大陸の西の果てだった。歩きだとどれだけの時間がかかるか検討もつかない。
世界を放浪して武者修行する冒険者みたいな話なのか。
ファンタジー世界にはいろんな人がいるものだ。
「ふむ、そうだな。この先は厄介な魔物も多い。アルバ岬まで付き合ってやろうかと思うがどうだ?」
「ええ!? 本当ですか? で、でも一応これは私たちに任された仕事で...」
エリスはすさまじい真面目なので俺たちに任された以上俺たちでこなすべきと考えているようだった。
真面目すぎる。
「なら、あとで私が教会に報酬をもらいに行こう。なに、あそこの仕事も何回かこなして知り合いもいるから面倒なことにはならないさ」
「ほ、本当ですか?」
「ああ。それとも教会っていうのは現場でこの程度のやりとりもできないほど堅物なのか?」
「い、いえ。現地で協力者に手伝ってもらうのは良くあることです。でも良いんですか? ご自分の都合とかは」
「目的なんかないさ。ただモンスターを狩って、素材を売ってその日暮らしをしてるだけだからな。むしろ、こっちもいつもより楽にモンスターを狩れるなら助かるというものだ」
「ほ、本当ですか! じゃあ、お願いします! 良いですよね、マコト様!」
「ああ、構わないさ」
俺は答えた。
と、それを見たイリーナが目を丸くした。
「今、守護者がしゃべらなかったか?」
「あ! はい! マコト様は意思のある守護者様なんです!」
エリスは誇らしげに胸を逸らした。豊かな双丘が柔らかく揺れる。
「すごいじゃないか。大聖女ジゼルと同じだ。これは珍しいものを見た。他にもなにか話せるのか? マコト」
「しゃべろうと思えばそれだけでもしゃべれる。人間と同じようなもんだと思ってもらって構わない」
というか中身は一般的なおじさんの人間であるのだが。
「へぇえ。守護者と話したのは初めてだ。何人か聖女とは会ったことがあるが」
「他の聖女にも会ったことがあるんですか?」
「色々世界を放浪してきたからなぁ。それなりにはな」
「すごい、本当に旅人なんですね!」
「ここ最近はずっとクレシア街道にいるけどな。稼ぎが良いんだここは」
ひょっとしてイリーナは結構な大人物なのかもしれない。
知ってる人なら知っている凄腕冒険者と言われても納得だ。
帰ったら聞いてようとエリスに提案してみるか。
「それにしてもマコト。なんだかさっきから視線が泳いでるがもしかしてここが気になるのか?」
と、
そう言いながらイリーナはその豊かな胸元を揺らした。
「ば、バカな! 俺は精霊だ!」
「い、イリーナさん! マコト様に限ってそんなことはありませんよ!」
「ええ? そうなのかぁ?」
ななな、なにを言ってくれるんだこの女は。
こっちは必死で視線を逸らしてたんだぞ。
この数ヶ月で鍛え抜かれたハプニング対策の視線の動き技術を駆使して。
絶対に気づかれないはずなのに。俺の視線はもはやそよ風のように誰にも挙動不審には見えないはずなのに。
この女、もしかしたらヤバいかもしれん。
気をつけなくてはならないかもしれん。
にわかに不安が湧き立つ。
「まぁ良い。とにかく行くとしよう」
「は、はい! よろしくお願いします!」
なにはともあれ、イリーナの協力のもと再び出発となったのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます