第39話 日暮れとセーフゾーン
「うぉおおおお! 討ち取ったぞぉお!!」
イリーナは勝ち鬨を上げていた。
必要なのかこれは。
目の前には瓦礫の山となった元ゴーレム。
俺たちはかなりの時間をかけてようやくゴーレムを倒したのだった。
「はぁはぁ...さすがに疲れましたね」
「ああ、こんなにラッシュを打ち続けたのは初めてだ」
エリスはかなりの疲労だった。
俺は俺で精霊なので肉体的な疲れはほぼないが、とにかく殴り続けたので気分的に疲労がすごかった。
すさまじい防御力のゴーレムを手数で押し切る。生半可なやり方ではなかった。
しかし、それ以外に手立てはない相手だった。
「お疲れ様2人とも。さすがにクレシア街道に使わされるだけはあるな」
肩で息をするエリスと疲労困憊の俺にイリーナは言う。
イリーナも疲れているように見えたがまだ余裕はありそうだ。
さすがにここでモンスター狩りをしているだけはある。
「イリーナさんはまだ余裕ですか」
「そうでもないさ。ここのゴーレムはとにかく硬くてね。普段はとっとと逃げるんだがおかげで久々に倒すことができた」
そしてニコニコしながら手にした何かを差し出した。
赤い、宝石のような球。ソフトボールくらいだろうか。
「ゴーレムの核か。なんか他の場所のゴーレムのと違うな」
「他のはもっとゴツゴツしてましたけど、本当に宝石みたいですね」
「ああ、こいつは高く売れるぞ。助かったよ2人とも」
ははは、と笑うイリーナ。こういうところは冒険者といった感じがする。
協力してくれるんだからこの程度はどうということもないが。
しかしそうか。躍起になってラッシュしていたがとっとと逃げるという手立てもあったんだった。
「さて、もう日も暮れてきたな」
「あ...、本当です」
お昼にクレシア街道に入ってゴブリンと戦い、イリーナと戦い、ゴーレムを殴りまくり。
気づけば日は傾いていた。
どこまでも広がる草原が赤く照らされている。
なかなかに良い景色だった。
「ここのこの時間の景色は見ものでね。海まで行けば海に沈む夕日も見える」
「わぁすごい。アイズの街からだと夕日って城壁に沈むものですから」
なるほど、街に住んでいるエリスにとっては海に沈む夕日は珍しいのか。
聖女の仕事で行くのも海側はあまりなかった。
リスキルはアイズが最も海側の都市になるからだ。
エリスにとっては海に沈む夕日というのはあまり馴染みのない景色なのだろう。
「それにしても、もう夜ということは今日は野営ですね」
「そうだな。手近なところに岩場がある。今日はそこで野営にしよう。それに、そこにはおまけもあるしな」
「おまけですか?」
「行ってからのお楽しみだ」
ふふ、とイリーナは含みのある笑いをした。そしてなぜだか俺を見た。
なんなんだその意地悪そうな顔は。
一体岩場になにがあるっていうんだ。
そして、しばらく歩くとイリーナの言う通り小高い丘に岩場が出来ていた。
しかし、自然なものではない。
人工的な岩場なように見えた。
「ここは大昔に人間が作った結界の張られた岩場にでね。まぁ、要するに冒険者が一休みするための場所になるわけだ」
「すごい、そんな場所があるんですね」
「大昔の人間もこの土地には手を焼いていたんだろうね。安全地帯が必要だったんだろう。こういう場所は他にも何箇所かある」
「へぇえ、そうなんですね。イリーナさんについてきていただいて本当に良かったです」
確かに、ここなら安全に夜を明かせそうだ。
イリーナがいなかったらモンスターの襲撃に警戒して夜も眠れないような野営になっていただろう。
俺とエリスならそれでもなんとかこなせるだろうが疲労が大変なことになっていたに違いない。
協力してもらって本当に良かった。
「さて、腹も減ったし晩飯の用意をしよう」
そう言うとイリーナは拾ってきた焚き木を並べるとついと指を振った。
一瞬で火がつく。
「わぁ、魔法も使えるのは本当だったんですね」
「こんないかつい剣を振っててな?」
「い、いえいえ。そんな見た目のことを言ってるんじゃ」
「分かってるさ、ちょっとからかっただけだ。本当のところ、この剣を使うのにも少し魔法を使っているんだ。さすがに重いからな」
「へぇえ」
エリスは関心しっぱなしだった。
エリスの法術も魔法の一種だが、女神に祝福された魔法だ。
そして聖女は聖職者として法術の使用のみが原則となっている。
だから、こんな風に自由に魔法を使う人を間近で見て感動しているのだろう。
「さて、火は起きた。じゃあ、ここにあるおまけを見せてやろう」
「さっき言ってた話ですね」
イリーナは俺たちを岩場の裏に連れて行く。
そこには、
「わぁ! 温泉ですか!?」
こんこんと湧き出、湯気を立てる岩の湯船があった。
ああ、そうか。そういうことか。
「これは魔法の温泉でね。疲労回復だけじゃなく傷も回復してくれる」
「すごい! お風呂に入れると思ってなかったから嬉しいです!」
「ああ、ゆっくり浸かると良い。裸の付き合いといこうじゃないか。エリスも、マコトもな」
「マコトもな」のところだけやけにねっとりした口調だった。
ニヤニヤしながらイリーナはこっちを見ている。
なるほど、これが今回の試練なのか。
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