第35話 アルバ岬への出発

「エリス、大した距離ではありませんが、クレシア街道は危険なモンスターがうろいついています。気をつけるように」


「はい! そのために私が使わされるのですから! 任せてください、行って来ます!」



 エリスは元気よくマザー・リースに言い、俺たちは出発した。


 聖女の任務のためだ。


 今回は封書の配達が任務だった。



「まるで配達員だな」


「配達先が配達先ですから」



 そう、王妃に表彰までされた俺たちがなんでそんな郵便配達員みたいな仕事をするのかと言えば配達先が特殊だからだった。


 配達先はここから2日ほど歩いたところにあるアルバ岬だった。


 そこは辺境で、街どころか人気さえまるでない。


 すなわち、危険なモンスターがうろつく場所なのだ。



「最低でもBランククラスのモンスターばかりですから。冒険者でもプラチナ以上でないと立ち入りが許可されていません」


「なるほど。普通人間が立ち入る場所じゃないんだな」



 しかし、俺たちの任務は封書の配達だった。


 配達ということは人間に荷物を届けるということだった。


 つまりはそんなRPG終盤のフィールドみたいなところに人が住んでいるのだ。


 その異常者は誰かと言えば、



「大賢者アーフィスっていうのは相当な変わり者だな」


「ええ、リスキルで1番の変わり者と言われているそうです」


「顔は見たことあるのか?」


「ないですね。というか、王国でも限られた人しか会ったことがないそうです。だから、『辺境の大賢者』という情報以外はみんな知らないんです」



 なんでも王国のシンクタンクみたいな人間らしく、時折政治の方向性だの、魔法の発展の助言だのを行い、新しい魔法を開発すれば魔導書を送りつけてくるのだそうだ。


 しかし、本人が実際に出向いてくることはまずないらしい。


 だからエリスの言う通り、どんな人間なのかを知るのは限られた人だけなのだそうだ。



「本当に行ってみないと分からないのか」


「そうですね。司教様から預かった封書も中身はわかりませんし」



 封書の配達を依頼したのはあの陰険な司教だった。



「でも、仕事は仕事です! 無事にやり遂げましょう! 私とマコト様ならできます!」


「そうだな」



 今日もエリスは元気が良かった。


 エンリケを倒してから俺たちの実力は王国中の人間が知るところとなった。


 こそばゆいが俺たちは王国最強格の聖女と守護者として有名になったのだ。


 あれからふた月。


 任務はとどまるところを知らず本当に忙しい日々だった。


 ディアナはエリスを誇りだと励ました。姉貴分としての気づかいだろう。


 アルメアはなぜか影で嬉しそうにニヤついていた。仕事が減るから嬉しいのだろう。



「そういえば、こんな風にただの配達みたいな仕事は本当に珍しいな」


「そうですね。秘密結社との戦いとか、上級モンスターの討伐とかばっかりでしたもんね」



 最近の任務はとにかく荒っぽい仕事ばっかりだった。


 その分俺たちは実力もついたが、しかしハードなのは事実だった。



「なんか、こう言ったらなんだけどゆっくりした仕事だな」


「そうですね。危険はありますが、クレシア街道に入るまでは馬車に揺られてのんびり進むだけですし。なんか落ち着いてますよね」


「助かるな。たまにこういう仕事も欲しいよ」


「そうですね。人助けはやりがいがありますけど、大変なこともありますもんね。それにしても、マコト様でも疲れを感じるんですね」


「まぁな。気疲れというか」



 守護者なので肉体的な疲れはないが、忙しいとさすがに疲れる。街を歩けば人だかりができたりもするし。


 それに戦いの中でエリスの服がはだけたり、弾き飛ばされたエリスの臀部が俺の顔面を押し潰したり、とりあえずなにとは言わないが戦闘中揺れ続けたり。


 とにかく色々気苦労は多い。


 少しゆったりした仕事はありがたい。



「ですがマコト様。油断は禁物です。危険なことには変わりありませんから」



 エリスはピッと人差し指を立てて言った。


 なんだかかわいらしい。



「分かったよ。仕事を軽んじちゃろくなことにならないからな」



 前世の戒めだった。


 適当なことをすると必ずろくでもないことになるのが仕事というものだ。


 今回もしっかりこなすとしよう。



「あ! 馬車が来てます。行きましょうマコト様!」



 路地の先には辻馬車が停まっていた。


 あれをスタートにいくつか馬車を乗り継いでクレシア街道まで行くのだ。


 半日ほどでクレシア街道に着く予定だった。



「わわわぁ!!」



 と、エリスは慌てて走り出したものだから盛大にずっこけた。


 スカートがはだけ、いろいろなものがあらわになった。



「え、エリス! 大丈夫か!!」


「す、すみません! 慌ててしまって!」



 恥ずかしそうにぱっと起き上がるエリス。


 まったく油断も隙もあったものじゃなかった。


 ハプニングはどこから現れるか分からない。


 そして、俺たちは改めて馬車に向かい、任務を開始したのだった。

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