第6話 二つ名持ちのモンスター
「
急にエリスがそれっぽい単語を言い出したので一瞬戸惑ったが今はそんな場合ではない。
「はい、このライカンスロープはリスキル連合王国の隣、エルド公国現れていた『二つ名持ち』のモンスターです」
「二つ名持ち?」
「モンスターの中でも特に強く、出した被害が甚大なモンスターには二つ名がつけられるんです」
「なるほど」
「私が先輩聖女の付き添いでエルドに赴いた際このライカンスロープはエルドでは知らないものがいないほど人々に被害を与えていました。1年ほど前消息絶ったので、エルドでは事故かなにかで死んだものと思われていたんです。まさかリスキルに来ていたなんて....!」
どうやらモン○ン的な話のようだ。超強い個体には識別するためにあだ名がつけられるといやつなのだろう。
ということはこいつは恐ろしく強いと言うことか。
「勝てるのか?」
「
確かに、今こいつは砦をうかがう俺たちの死角になる後ろの岩場の陰から飛び出してきた。それは偶然ではないのだろう。
こいつは人間がまず砦を警戒することを分かった上で、その正反対のもの物陰に潜んでいたのだ。
俺が守護者として勘を働かせていたから良かったが、あのままエリスが頭を下げなかったらと思うとぞっとする。
そして、今までここに来た戦士たちはそうやって敗れていったのだろう。
「強いのは確かです。ですが私はもう正式な聖女、簡単に退くつもりはありません。このモンスターはここで討伐します! マコト様、力を貸してください!」
「了解だ」
了解だと言ったが不安はある。
しかし、さっきのエリスの言葉が俺の不安をじんわり溶かしていった。「マコト様はお強いです」。なんて良い言葉なのか。
とにかく戦闘開始だ。
俺たちが会話している間もライカンスロープはじりじりと俺たちの周りを回っていた。
様子を伺っているのだ。
「はぁっ!!!」
エリスが杖をかざして叫ぶ。すると杖から白い炎球が飛び出し、ライカンスロープに飛んでいった。
エリスの法術だ。教会の人間が使う女神の祝福を受けた魔法らしい。
ライカンスロープはそれをなんなくかわす。
そして、そのまま飛びかかってきた。
それは、俺の圧倒的動体視力を持ってしても速かった。
スライムの攻撃が素人のキャッチボールの球なら、こいつのはバッティングセンターの遅い球くらいはある。
「くそ!」
俺はそれに合わせて拳を振るうがなんなく避けられてしまった。
やはり難しい。俺はバッティングセンターの遅い球にもバットを当てられない人間だった。
「し、信じられないほど早い。これが血染めの咆哮.....!」
俺の目でも速く見えるのだから人間のエリスの目にはまったく捉えられなかったらしい。
俺のパンチは強いが、やはり当たらなくては意味がない。パンチの速度もかなりのものなはずだが、ライカンスロープは戦い慣れているのかうまく避けていた。
「大丈夫か?」
「はい、私は大丈夫です。ここまで速いなんて。上級の戦士でないと捉えることさえ出来ないでしょう」
今までの戦士が歯が立たなかったわけだ。
こいつはこの国で存在が確認されていない『二つ名持ち』だった。誰もこのライカンスロープについては強いということ以外は分かっていなかったわけだ。戦士たちも命までは落とさなかったという話らしい。なのでその恐ろしさも思ったほどに周囲に伝わっていなかったのか。
だが、実際は隣国で人々を震え上がらせるほどの危険なモンスターだった。
思った以上にに厄介な仕事だったようだ。
「ここで逃せば被害が広がる。仕留めます!」
「おう」
ライカンスロープが再び襲いかかってくる。
俺はそこに合わせて拳を振るうがまたかわされた。
ライカンスロープは再び距離を離す。ヒットアンドアウェイがこいつの戦術のようだ。こうして徐々にこっちの体力を削っていくのだろう。
ライカンスロープは何回も何回もそれを繰り返してくる。
俺は拳を振るい、エリスは法術で応じるがライカンスロープにはなかなか当たらない。
ライカンスロープはそれを嘲笑うかのように飛び回り俺たちに攻撃を仕掛けてくる。
俺はそれを迎撃する。
あっちの攻撃も当たっていないが、こっちの攻撃も当たらない。こう着状態。しかし、
(なんか....)
ライカンスロープがまた襲いかかってくる。
(速度に慣れてきたぞ....!)
ライカンスロープの速度、それに俺の目は慣れてきていた。
確かに速いが、ここまで動きを見せられればだんだん馴染んでくる。
俺はそれに合わせて拳を振るった。
「うらぁ!!!」
『ギャインっ!?』
確かな手応え。ライカンスロープが叫び声とともに吹っ飛んだ。
俺の地面を叩き割る拳は確かにライカンスロープに命中していた。
「や、やった! ようやく当たりましたねマコト様!」
「おう」
動きに慣れた。これならパンチを当てれる。
ライカンスロープは起き上がり、口の端から血を垂らしながら俺とエリスを睨んでいた。そして低く低く唸っている。
このままなんとか押し切る。
俺は拳を構えた。
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