第22話 シュレイグの朝と作戦開始

「んー、おはようございます! マコト様!」


「ああ、おはよう」



 朝だった。窓からは変わらずシュレイグの景色が見える。


 天気は晴れ模様。澄み渡る青空が広がっていた。この街は早起きなのか、もう通りには人の姿が結構あった。



「よく寝れたか? エリス」


「はい、おかげさまで。目覚めはばっちりです!」



 それは良かった。


 俺は不思議な夢を見た。少女になる夢。少女が悲しんで悔しがっている夢。少女が一生懸命頑張っている夢。あの少女は...、



「どうかしましたか? マコト様」


「ん? いや、なんでもない」


「そうですか? では朝ごはんにしましょうか」



 微笑んでベッドから起き上がるエリス。


 しかし、



「うおぉっ!」



 そのエリスの胸元、パジャマのボタンはエリスの寝相で外れてあまりにもあらわになっていた。豊かな肌色がはっきりと視界に入った。



「大丈夫ですか!?」


「いや、目の前に虫がっ!」



 俺は言い訳しつつ目線を外した。視線を外す技術はかなり上がっているが、こういう不意打ちはどうしようもない。


 部屋にエリスしかいないのでエリスはぼんやりした頭のままでそのまま起きてしまう。


 危なっかしいことこの上ない。



「下の兵舎で朝食が用意されてるはずです。行きましょうか」


「お、おう」



 俺は平静を装い答えた。


 エリスはささっと髪をまとめて服を聖女の仕事着に着替えると俺と共に部屋を出た。








「おはようエリス」


「おはようございます。ディアナお姉様」



 俺たちの横にディアナは座った。


 兵舎の食堂には聖女のみんなが集っていた。このシュレイグに勤めている兵士と混じってみな食事をとっていた。パンにスープにサラダ。簡単な朝ごはんだ。



「慣れない土地だがよく寝れたか?」


「ふふ、ディアナお姉様と一緒に各地を旅していたんです。もう大丈夫ですよ」


「そうか、任務となればまた別かと思ったが」


「マコト様が励ましてくださいましたから」



 エリスはニコニコしていた。なんか照れる。



「そうでしたか。いや、エリスとマコト様はもうコンビとして十分ですね」


「そ、それほどでも」



 俺はテレテレしながら頭をかいた。ディアナはそれを見て微笑んでいた。いやぁ、ディアナほどのできる人に褒められる日が来るとは。生前では考えられないことだ。



「ラキア様の探索はどうなっているんですか?」


「順調に進んでいるようだ。もうシュレイグの3分の2ほどは探索を終えているらしい。エンリケの場所は今日にでも見つかるだろうな。心しておけよ」


「はい!」



 なるほど、見つかるとしたら今日なのか。なら、作戦決行も間違いなく今日なんだろう。


 心の準備をしておかなくてはならない。エリスだけじゃない、緊張しているのは俺だって同じだ。



「エリスちゃぁあん! お姉さんを助けて」



 そうして俺たちが食事をしていると半泣きでやってきたのはあのアルメアだった。



「アルメア様。おはようございます」


「おはよぉお。結局昨日もなんだかんだと仕事だったわあ。ディアナちゃんも一緒に抗議しましょう」



 アルメアとディアナは聖女のトップとして昨日も夜遅くまで打ち合わせだったらしい。



「気持ちはわかりますが、ここは押さえて」


「おぉん。おぉおおん。このパン美味しいわねぇ」



 アルメアは相変わらず賑やかだった。


 その時だった。



「聖女の皆様にお伝えします。エンリケ・オーハイムの場所が特定されました。食事を終え次第、シュレイグ正門前に集合してください」



 入り口で伝令の兵士が言ったのだった。



「よし、いよいよか」


「はい」


「もうなのぉおおお!?」



 いよいよ、シュレイグでの任務が始まるらしかった。








「おはよう、お歴々」



 シュレイグの大きな正門前で司教のじいさんは言った。


 その前に集っているのは10人の精鋭の聖女、教会騎士団の面々およそ50人、そしてシュレイグに勤める兵士たち。


 たった1人の犯罪者のためにこれだけの人数を揃えるとは。教会のエンリケへの警戒がうかがえた。


 司教は話を続ける。



「エンリケの居場所はシュレイグ東の住宅街。その民家のひとつに潜伏している」



 先ほど地図を見せてもらった。本当に住宅街のど真ん中だった。こんなところに平気で人を殺す犯罪者がいるなんて恐ろしい話だ。



「先の段取り通りの陣形で当たる。各々自分の配置に向かって移動するように。連絡は遠話の法術で行うこと。各自全力で任務に当たるように。以上。では移動を開始する」



 そして、俺たちは移動を始める。あまり一度に同じ方向から移動すればエンリケが勘付かないとも限らない。遠回りで行く班から順番に出発していった。



「ではディアナお姉様。お気をつけて」


「ああ、お前もな、エリス。お互い頑張ろう」


「はい!」



 そして、後衛の俺たちも移動を開始した。


 一緒の配置につく聖女2人と共に。


 2人は遠隔で秘跡で攻撃するものと、遠くから前衛にバフをかけるも守護者をそれぞれ従えているらしい。


「肩を張らなくていいわよエリスちゃん」


「そうだそうだ。ちんちくりんが気負いすぎるな。まぁ、いざとなったら守ってやらんでもない」


「ふふ、ありがとうございます」



 2人の聖女は冗談混じりに言った。2人ともエリスよりやや年齢が上だろうか。


 悪い人たちではなさそうだ。


 いよいよ作戦が始まった。


 無事に進んで、うまくエンリケを捕縛できれば良いのだが。

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