第20話 食堂での騒動
それからの日々はあっという間に過ぎていった。
俺たちは毎日ディアナの稽古を受け、自分たちに足りないものを必死に補っていった。
ディアナの稽古はきつかったが、間違いなく今上達しているんだという実感があった。だから、俺もエリスも必死についていった。
稽古を受けて、マザー・リースのご飯を食べて、泥のように爆睡して、起きたらまた稽古。そんな風な日々だった。
部活とかやってたらこんな感じなんだろうか。俺は生前も帰宅部一筋だったので良く分からない。
だが、毎日頑張っているエリスを後方斜め上から見ていると「青春だなぁ」などとバカな感想を持つのだった。
そんな風な日々のある日の昼食。
俺たちは教会の食堂で昼食を食べていた。
昼はいつもこうして食堂でご飯を食べている。
「いただきます!」
エリスは両手を組み女神に祈った後言った。
教会の昼食といえば、パンとかスープとか聖職者らしい質素なものかと思っていた。しかし、ゴリゴリの現場仕事である聖女がいるせいか、かなりスタミナを意識したメニューも多かった。
今日エリスは焼肉丼を食べていた。
「うーん! やっぱりお肉を食べると生き返ります!」
特盛の焼肉丼を頬張りながら言うエリス。
ここまで見てきてやっぱり、エリスはどうも食べる量が多いように思われた。あんまり直接口にはしないが。
「午後の訓練も頑張らないとな」
「はい! ようやく教わった動きが馴染んできました」
俺はエリスの上で霊薬を飲んでいる。今日チョイスしたのは赤色の霊薬。守護者の特殊能力、秘蹟の効果を上げる霊薬だ。だが、俺は秘蹟は持たないので関係ない。
爽やかな酸味が喉から鼻を抜け、少しとろみのあるまろやかな口触り。美味しい。
「ディアナは3時まで戻らないからそれまでは自主練か」
「はい。動きをしっかり確認します」
ディアナは任務の打ち合わせがあるとかで席を外していた。
ディアナはたびたびこういったことがあった。俺たちは自主練だった時間も多い。ディアナは相当忙しいらしい。
そんな風に俺たちが昼食時間を過ごしていると、
「あらあら、噂の第6聖女様じゃありませんこと?」
唐突に声がかけられた。
「あ、ドロテアさん」
そこに立っていたのはこれでもかというほど縦ロールが入った赤い髪の少女だった。
大体エリスと同じくらいの年齢だろうか。
すごく不適な笑みを浮かべている。
「よかったですわね。シュレイグへの任務の参加。同期として鼻が高いですわ」
「ええ、本当に。私なんかが参加して良い任務じゃないと思うんですけど」
エリスは謙虚に言った。エリスは本当に謙虚だ。なんて良い娘なんだ。
「その通りですわ」
しかし、縦ロールの子は言った。
「本当はあなたなんかが参加して良い任務ではなくってよ。たかだか守護者様の能力だけで二つ名持ちを倒したからって良い気にならないことね」
縦ロールの子はものすごく高圧的だった。
これはあれだ。いわゆるいびりだ。優しくて謙虚なエリスにつけこんで言いたい放題言うつもりだ。
「そうなんです。本当はそのはずなんです」
「そうですわ。ちょっと成果をあげて、ちょっとチヤホヤされただけで図に乗って。みっともないったらないですわ。今からでも遅くない。あなたはシュレイグの任務を辞退すべきですわ」
「そ、それは...」
いくらなんでも言い過ぎだ。何を隠そう今日も一生懸命訓練したのはシュレイグの任務にうまく参加するためだ。この前の休日だって2人で健闘を誓い合った。
これは完全にひがみだ。
聖女になったばかりのエリスの成功を妬んでいるのだこの縦ロールは。
「そうですわそうですわ。なんなら今からでもわたくしが....」
「良い加減にしてくれないか」
言葉が止まらない縦ロールを俺は思わずさえぎっていた。
「エリスは頑張ってる。今日だってあのディアナと練習試合をして必死に食らいついてた。あのディアナを相手にだぞ」
「しゅ、守護者様がしゃべっ.....」
どうやら俺がしゃべるとは思ってもいなかった縦ロールはものすごく動揺していた。
「エリスの成果を全部俺のおかげみたいに言うのもやめてくれ。ライカンスロープとの戦いで、顕現したてでうまく戦えなかった俺を励ましてくれたのはエリスだ。あのライカンスロープに勝てたのは間違いなくエリスのおかげなんだよ」
俺は守護者がしゃべったのにおののいている縦ロールの前でものすごくしゃべった。
「訓練でエリス自身の実力もどんどん上がってる、エリスを無能みたいに言うのはやめてくれ」
「な、な、な、おお。しゅ」
縦ロールはなんだかフリーズしていた。
おそらく人にこんなに言い返されるのは初めてで、その言い返したのが守護者なので思考回路がショートしたのだろう。
訳がわからなくなっているのだろう。
「そこまでだ、ドロテア。私の妹分に言いたいことがあるなら私も同席させてもらおう」
「......! ディアナ様!」
そこにいたのはディアナだった。時間がかかると言っていたのに。
「く、失礼します」
そして縦ロールは本当に悔しそうにしながら走り去っていった。
なんだか悪いことをしたのか。いや、俺は間違っていない。どう考えても間違っているのはあの縦ロールだ。
日和見主義でこんなに言い返したのが初めてなので勝手が分からん。
「ありがとうございます、マコト様」
言ったのはエリスだった。エリスは微笑んでいた。俺が言い返してくれて感謝しているらしい。
「え、いやいや、大したことじゃない」
俺はなんだか恥ずかしくなって頭をかいた。あんまり守護者らしくない振る舞いだったが仕方ない。
「ありがとうございます、マコト様」
そして、エリスとまったく同じ言葉を口にしたのはディアナだった。
「え、いやいやいや! 全然大したことじゃない!」
そして俺もぶんぶん手を振りながらまた同じようなことを言った。
「マコト様は愛嬌がありますね」
「そうなんですよ。マコト様は結構おちゃめなんです」
2人はなんだか楽しそうに笑っている。
なんだこのホワホワした空気は。俺はかなり恥ずかしくなった。
肌が赤くてよかった。今俺は真っ赤になっているだろう。
しかし、役に立てたならよかった。エリスが笑っているなら良かったのだ。
それからさらに数日経って。
「よし、エリス。お前はもうシュレイグに行っても問題ない」
「本当ですか!」
ディアナはエリスに言った。
とうとうだった。とうとう、ディアナはエリスを認めてくれたのだ。
「だが、過信はするな。お前が考えるのは第一に....」
「自分の身を守ること、ですね。わかっています。ディアナお姉様」
「それなら良い。私もいよいよお前と並んで任務につけると思うと嬉しいぞ」
「私もです!」
そうして、俺たちの準備は整った。
その2日後、俺たちはシュレイグへと発ったのだった。
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