覇者は交渉しようとする
約束の刻限に村はずれの小屋へと向う。
小屋からは薄明かりが漏れ、先に誰かが来ていることが見て取れた。
ミカエラとココを後ろに立たせ、殺気は抑えつつ警戒は怠らない。
扉を三度ノックし返事を待つ。
『どうぞお入り下さい』
落ち着いた男の声で入室が許可される。
ゆっくりと扉を開き中へと入る。
目の前に居た二人の猫耳族の者達が一瞬で緊張したのが分かった。
やはり人間の姿に恐怖心があるのだろう。
幸いだったのは後ろから入ってきたミカエラとココの姿を見て、その緊張が少しだけ和らいだ事だ。
恐怖は抑止力にはなるが、恐怖に押し潰された者は考える事を放棄してしまう事もある。
必要ならば、俺はその方法を取ることを厭わない。
しかしだ。たかだか数十人の村を脅して従えさせる覇者など滑稽でしかないし、そんなのは小物がする事だ。
当然俺の望む覇道ではない。
俺はそんな考えのもと相手の対応をうかがっていると。
ミカエラが張り詰めた緊張感を察し、すぐに間へと入り俺を紹介してくれた。
『ゴルゴルにポルポル。こちらがネネを助け、私が同行しているヴェルガー様です』
『よろしく頼む』
俺が一言挨拶をすると。
ミカエラはさらに猫耳族の二人も俺に紹してくれる。
『それからヴェル様。こちらが猫耳族の族長のゴルゴルと長老のポルポルです』
『あの、今回はネネを救ってくださりありがとうございます』
代表としてゴルゴルの方が頭を下げる。
一方、ポルポルの方は不機嫌そうにこちらを見ている。彼の方が人間に対する不信感が強そうだ。
『ふん。ところで、なんでココがそっちにおる?』
そのポルポルが口を開くと、やや強い口調で尋ねてくる。
『じじぃ、いい事に気がついたです。ココは強くなるためにこいつと、ベルと一緒に外へ行くことに決めたのです』
ゆっくりと順を追って説明するつもりだったのだが、ココが自ら全て話してしまう。
『ならん!』
ポルポルがそう一喝すると、不信感をより強めこちらを睨んでくる。
族長のゴルゴルは難しい顔をして何かを考えている様子だ。
『イヤなのです。もうココは決めやがったのです。だいたいじじぃはいつも、あれをするな、これはするなと煩いのです。偶にはココの意見もそんちょーしやがれです』
俺とミカエラが説得する前に、ココが喧嘩腰で応対する。まあ感情的なヤツなのは会って早々に分かっていた事なので問題ではない。
『まったく、お前は外の世界の危険性を知らんから、そんなお気楽な事を言えるのだ。ネネもそうだが我らの一族で歴代最強と言われていたお前の祖父でさえ、人間の魔術師の前では手も足も出なかったのだぞ』
面白い話だ。
そのココの祖父というのは間違いなく今のココより強いのだろう。そんな相手が手も足も出なかった魔術師。是非とも死合ってみたいものだ。
と、そんな俺の思考が思わず脱線してる間にも、ココはポルポルは睨み合っていた。
『そんな事何度も聞かされたです。だからこそココは強くなるのです。じっちゃんを倒した悪魔を倒すために……ベルは約束したのです。ココでも悪魔を倒すことが出来るようにしてくれるって』
ココは俺の言った話しを持ち出し説得に掛かる。
しかしポルポルからすれば根拠の無い話だ。
それにネネの件もある。若者を危険な目に合わせたくない気持ちも理解出来る。
そう、分かっているが俺はココが欲しい。
そしてココは、より高みの強さを欲している。
つまり今進むべきは同じ道。
ならば俺も口を挟む権利があるということだ。
『誇り高き
俺の言葉に激昂したポルポルが立ち上がり、鬱積した激情を前面にぶつけてくる。
『なんだとキサマがそれを言うのか、我らをここに押し込めた人間族のオマエが、あまつさえ神聖な部族の本当の名を持ち出してまで』
静観していた族長のゴルゴルも厳しい目を俺に向けてくる。
なるほど悪くない。
どうやら尻尾を切られて丸くなった猫では無いらしい。
『ココにも言ったが俺をそこら辺の人間族と一括りにするな。俺は生まれついての覇者。この大陸に変革をもたらす者だ』
『なにを世迷い言を』
『本当に世迷い言だと思うのか?』
俺は内に眠る闘気を解放し、彼らの野生の本能に働き掛ける。
ポルポルとゴルゴルはおろかココさえも圧倒的な力の差を自覚し耳が完全に縮こまる。
その上で俺は最終判断は彼ら自身に委ねるつもりでいる。
『ミカエラ。済まないがまた精霊術を見せてくれ』
『ふぅ、分かりました。本当にヴェル様はしかたないですね…………ポルポルにゴルゴル付いてきて下さい見せたいものがあります』
戸惑いながらも、ミカエラに先導される形で小屋を出る二人。
俺とココがその後に続くかたちで外へと出た。
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