覇者は馬を得る
狩りの獲物の後処理は他のエルフ達がやっておくと言うので任せて、俺とミカエラは山麓の村へと戻る。
この後の予定としては、この村の鍛冶師連中にアダマス鋼の精製手順を実技指導し、それが終わり次第旅立つつもりだ。
そしてミカエラにはその事を伝えていたので助言をされる。
「ヴェルガー様。旅をするのなら馬を手に入れた方が良いかと」
「馬か」
ふと前世での愛馬大黒天を思い出す。
彼奴とは幾多の戦場を共に渡り歩いた友とも呼べる存在。
そう俺にとって馬は最も信頼すべき友でなければならない。
「それで相談なのですが、森を西に抜けた先の平原で珍しい馬が確認されまして、まあ正確に言うとオロバルという赤毛馬の魔獣なんですけど、魔獣とは思えない貫禄の持ち主で、最近では【
これは間違いなく俺に厄介事を片付けさせようという魂胆もあるのだろう。俺が凝視し続けると気まずそうに目が泳ぎだす。
「それで俺にどうしろと?」
「可能なら捕獲して騎乗馬に出来ればと」
「でっ、本当の目的は?」
「西の平原にはユニコルと呼ばれる一角馬も生息していまして、その角を少しだけ削らせてもらって薬の材料にするのですが、その【
なるほど、その邪魔者が消えないと薬が作れないというかとか。
しかしミカエラも俺を上手く使うようになった。
確かに俺は無性に馬が欲しい。
なら、その言葉に乗るのはやぶさかではない。
「分かった。一通りアダマス鋼の精製技術を仕込んだら向かおう」
「ありがとうございますヴェルガー様。勿論私もお供しますから」
当然付いてくると思っていたし、断る理由もないので頷いておく。
それから一ヶ月掛けて鍛冶師連中にアダマス鋼の精製技術を叩き込み。
だいぶんマシになってきたところで俺は西の平原に向う準備を始める。
山麓の村から森を抜けて西の平原までは徒歩で七日。武器の他には携帯食料を十日分詰め込み出発する。
ミカエラは傷薬やら毒消しやらを準備し少しかさばっていたので仕方なく俺が荷物を背負ってやった。
移動中は特に問題なく、途中で出会ったアングリーボアを狩って、ミカエラがハーブを使って美味しく調理してくれたのが印象的だった。
平原に出て少し歩くと、この周辺には特に危険な獣はいないとの事だったが、気配感知で凄そうなヤツを見つけた。
興味がてら向かってみれば、件の【
「凄いな」
思わず呟いてしまうほどに雄大な馬体。
体高は二メルは優に超え、体長も三メルは楽に超えている。
そして何よりも、その渾名の由来ともなっている赤毛は燃え上がる炎のようで、日に反射しさらに美しく彩られていた。ひと目見て見惚れるほどに。
「気を付けて下さい。オロバルは魔獣なので魔力を持っています。場合によっては精神感応で魔術を発動しますよ」
ミカエラの忠告に思わず笑いそうになる。
なぜなら、これから魔を断とうとしている男が魔術を操る馬に乗る。何とも皮肉が効いている。
ますます目の前の馬が欲しくなった。
それが例え魔獣であっても。
何よりも、あんなに美しくしく、かつ威厳を感じる馬は見たこと無いからだ。
俺は隙を窺い、背に跨る準備をする。
古来より馬と分かり合うには背に乗るのが一番だと決まっているからだ。
オロバルもそれを察知しているのか、隙を見せる事無く注意を俺に向け続ける。
「やるな、さすが【
まさに強者の風格を持つ魔獣オロバルに敬意を表すると同時に、俺は動いた。
軽功で身を軽くし視界の外。真後ろに瞬時に移動する。オロバルも気配を察知し、大きく後ろ足で蹴り上げて来る。
しかし、俺はそれすら回避すると跳躍し、二回転しながらシュパッとオロバルの背中へと着地する。
そしてここからが俺とオロバルとの真剣勝負の始まりだ。俺を振り落とそうと激しく跳ね回り暴れ回るオロバル。
俺は振り落とされないよう必死にバランスを取りつつ、内ももを馬体に押し付け安定化を図る。
「ヒィィハァァー」
思わず前世での暴れ馬を乗りこなす遊びを思い出し掛け声をあげてしまう。
オロバルは必死になって俺を振り落とそうとし、俺は必死になって振り落とされないよう踏ん張る。
これぞ男と男の熱い闘い。
そして男には闘いを通して生まれる友情もあるのだ。
事の成り行きを心配そうに見つめるミカエラを尻目に、俺とオロバルとの長い闘いは丸一日続き、最後はやはりこの覇者たる俺が勝利を収めた。
当然、熱い闘いを通し俺と【
因みに手懐けて分かった事だかこのオロバルは牝馬だった。つまり熱い闘いに男も女も関係無いと言う事だ。
「ワッハッハッハ」
俺が勝利よ高笑いを上げていると、ミカエラがキラキラした瞳で尋ねてきた。
「ねえ、ヴェルガー様。この子の名前何にしましょうか?」
名か、ならば前世の物語にあった
「そうだな
「エンリですか、可愛らしい名前でいいと思います」
若干俺とミカエラの感じる語感が違う気がしたがまあ良いだろう。覇者たる者は些細な事など気にしないものだ。
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