覇者は語り合う

 俺が覇者となるための力をどれだけ持っていようと、一人で出来ることなどたかが知れている。

 俺は俺に出来ることしか出来ない。

 当たり前の話だ。

 俺にどれだけの武があろうと数万の軍に一人で勝てるはずも無い。


 だからこそ才有る者が必要だ。

 国を征するためにも、国を制する意味でも。


 そして今後もっと人材を確保していく必要がある。

 だから、ココを迎え入れることが出来たのは大きな一歩と言える。




「ヴェル様。何をお考えで?」


 小屋をそのまま寝床として提供されたが寝付けないまま、空を見上げていた。


「今後のことを色々とな」


「そうですか……ヴェル様が本気で大陸に覇を唱えようとしているのは理解しています。ですが、私が言うのもなんですが、怖くないのですか同族殺しの悪名を背負う事になるかもしれないのですよ?」


「そうだな、平和に暮らしているつもりの貴族連中にすれば、俺はそれこそ野盗や盗賊など比較にならない極悪非道の大罪人になるだろうな。実際それだけの同族を切る覚悟も出来ている」


「では、それだけの覚悟を持って世界を変えようとするのは自身に魔力が無く虐げられてきたからですか?」


 魔力が無いのは確かだが、虐げられてきたとは思っていない。もっとも強い者が力の無い者を虐げるのはある意味で動物の本質。自然の摂理とも思っている。

 だから俺が大陸を統べたとしても。


「力無い者が虐げられるのは俺が覇者となっても変わらんよ」


「ならなぜ」


 珍しくミカエラが感情的な声を出す。


「だが、俺の下なら、力は多種多様だ。腕力だけじゃない、知識も力だ。それこそ作物を育てる力だってそうだ。魔力だけが力では無くなる。ただそんな多種多様な力が求められる世界になったとしても、あぶれる者は必ず出てくる」


「だから虐げられる者はなくならないと?」


「そうだ。俺は覇者だが神ではない、人ひとりに出来ることなどたかが知れている。それこそ俺がここで覇者になると喚こうが、力を貸してくれるものが居なければ負け犬の遠吠えになるだけだ」


「……成る程、分かりました。私は覚悟が足りなかったようですね。貴方と道を共にし、貴方の為の道具となる為の……ですから改めて宣言します。私ミカエラは貴方の為の道具としてどんな事もこなしてみせると」


 ミカエラは深々と頭を下げる。

 誇り高き森の賢人エルフが人間に頭を垂れるのにどれだけの覚悟が必要だったかは分からない。

 ただミカエラの言葉に他の思案があっても、偽りは感じられなかった。


「分かった。お前の覚悟は受け取った。それがお前の立てた誓いにも通じるのだろう」


「ヴェル様……ご配慮感謝します。では早速道具としての務めを」


 ミカエラはそう告げると、妙に艶めかしく俺に近づいてくる。


「おい、何をするつもりだ」


「勿論、純潔を捧げて喜んで頂こうかと」


 思わず息を呑む。

 ミカエラほどの美女からの誘いとあらばやぶさかでないからだ。

 しかし、前世で男と女の情事で痛感したことは、義務で奉仕してもらってもつまらない。

 やはり俺としては、愛してくれる女を啼かせて、悦ばせることこそ愉しみというものだ。


「待て、義務感での伽など必要ない」


「えっ!? えっと。人間族はこうすれば喜ばれるのではないのですか?」


 どこかで穿った知識を身につけていたらしい。

 まあ確かに強欲な人間なら喜びそうなことではある。それこそミカエラほどの美貌ならそんな欲望の対象になってもおかしくない。

 そう思うと同時にミカエラが他の男の者になる嫌な想像が頭をよぎる。

 途端に胸の奥がざわつく。

 直ぐになんなのか理解した。

 なんてことは無いただの嫉妬である。

 でも、つまりそれは……。


「俺は女を抱くときは、義務では無く心から愛した時だ。そして抱かれる女も俺に心を寄せていてほしいと思っている。だから、お前が今度俺に迫る時は、本当に俺が主として相応しいと認め、心の底から俺を求める時にしてくれ」


 折角の覚悟を無下にして悪いと思いつつ、俺は本音を告げる。詫びというわけではないが頬に手を当てそっと指で唇を撫でる。もったいないがキスはお預けだ。


「おっぱぁぁぁいぃぃい!?」


 覚悟とは違った想定外の事態に動揺を隠せないミカエラ。

 そんな珍しい姿に思わず笑みがこぼれる。


「ミカエラ。明日も早いぞ寝坊するなよ」


 俺はそう告げると先に寝床へと戻った。


 翌日。


 珍しくミカエラが起きていた。

 ただ目を充血させ、頭を抱えて唸っているので、おそらく眠れなかったのだろう。


「あっ、あの、おはようございますヴェル様」


 朝の挨拶にさえ緊張した様子が感じられる。

 どうやら意識させすぎたらしい。


 今から村に行って親睦会を開く予定なのだが、今のミカエラで大丈夫だろうか? 


 そう思いながら、俺とミカエラはココが待つ村の中心にある大広場へと向かった。


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