覇者は説得する

 小屋の前の開けた場所で俺とミカエラが距離を取って対峙する。

 やる事は以前やった精霊術をアダマス鋼で斬り伏せるデモンストレーションだ。


『ミカエラ。以前やったのより強力なやつで構わないぞ』


『まったくヴェル様は簡単に言ってくれます。もう知りませんからね…………』


 ミカエラは愚痴りながら精霊のシルフィードを呼び寄せる。

 そして注文通り、以前の【空気弾ゲペル】より強力な【斬烈風シュツル】を使うと宣言しシルフィードに囁きかけた『風よ斬り裂け』と。


 すると風が鋭利な突風となってこちらに放たれる。目に見えない風の刃だ。

 流石にこれは、避けずに受ければ裂傷は免れない。見ていた者の中では、ココだけがその危険性に気がついていたようだ。


 しかし前回同様に風の刃はアダマス鋼に触れた途端、そよ風になることも無く凪いだ。

 

 そしてその凄さを理解できていたのは目を輝かせ大声を上げてはしゃぐココだけだった。



『……えっとすまん。もっと派手な精霊術で』


『はぁ、まったくヴェル様は……』


 ポルポルとゴルゴルが凄さをイマイチ理解しきれてなかったので、結局【空気弾ゲペル】を派手に撃ち、それを打ち消してみせる。


 ようやく凄さに気がついたポルポルとゴルゴルが驚愕の声を上げる。


『どうだ見たか? これこそ、これから大陸を統べるための俺達の武器になる鋼だ。これで魔術を使えなくとも人間族の魔魔術師と渡り合える。それは俺が実際に魔術師を切って実証済みだ』


『まさか、そんな事が可能だと……』

『信じられないが目の前で見たのは事実だぞ』


 ポルポルとゴルゴルが顔を見合わせ話をしていた。


『すごい、すごいのです。ベルの目の前で怖い風が消えて無くなったのです。どうやったのか早くココにも教えやがれです』


 ココは終始興奮しっぱなしで俺に纏わりついてくる。


 俺は纏わり付くココを宥めながら、ポルポルとゴルゴルに尋ねる。


『どうだアイルリアン猫耳族も世界を変える戦いに参加しないか? 勿論今すぐと言う訳ではない。まだまだ俺には力が足りない。兵力も資金も何もかもな。だがこのアダマス鋼は確実に手の内にある』


 族長のゴルゴルが鋭い視線で俺を見て言った。


『……つまり、人間同士の戦争に我々も力を貸せと』

 

『言ったはずだ。アイルリアンはいつまで人間族におびえて暮らすのかと、これはあんた達が人間族の恐怖から解放される為の戦いでもある』


 俺の言葉にポルポルも反論する。


『詭弁だな。結局支配者が変わるだけだろう。今の人間族の国王からお前に、それの何が違うと言うのだ』


『言ったはずだ俺は大陸を統べる覇者。ならば人間やその他の部族全て俺の下では等しく同じ……だがそれは俺が味方と認めた者達だけ、敵対者や利権だけを貪ろうとする傍観者を俺は憂慮するつもりはない』 


『それは脅迫ともとれるぞ』


 ゴルゴルが声を荒げる。


『そう捉えるかどうかはお前達次第だ』


『はぁ、まったくヴェル様は言葉が足りなすぎです。ゴルゴルにポルポル、いいですかヴェルガー様は事前に話した通り我らユーフォニアのエルフ族と盟約を結んでおります。それは個人ではなく組織としての相互協力の約束。なのでヴェルガー様が挙兵した際ユーフォニアはその後ろ盾となる準備があるのです』


『……つまり三賢老もお認めになったと』


 ポルポルが目を見開いて驚きを隠せないでいる。


『はい。三賢老のひとりヨゼフがその身を持って制約を取り交わしました。その証拠に……ヴェル様、申し訳ありませんが制約の証をお二人にお見せください』


 俺はミカエラに言われた通り、ヨゼフと制約を交わした時に出来た手の甲の紋様を見せる。


『おお、それは紛れもなくヘカティーナ様の印』


 ポルポルが驚いたところを見ると、どうやら猫耳族にも暗き月の女神ヘカティーナは分かるらしい。


『貴方達にこのような制約を交わしてまで協力しろとは言いません。しかしヴェルガー様が挙兵し御旗を掲げた際。もしこの村の中にも人間族の横暴を許せないと立ち上がる者がいれば力を貸してもらいたいのです』


 何だがミカエラに上手く説明れてしまった。

 現に先程俺の言葉には不信感有り有りだった二人が納得仕掛けている。


『俺としてはココが来てくれるだけでも、この村は守るに値すると断言しよう』


『それはココを人質に取ると?』


 纏まりかけた雰囲気が俺の発言で崩れかける。

 はぁ、俺は本当に口下手で困る。

 なら口下手なりに思っている事を伝えるだけだ。


『違う。ココはいずれ俺の元で将軍にさえなれる器だ。なら組織の重鎮になる者の生まれ故郷を大切にするのは、上に立つ者として当然であろう』


『おおっおっ、おおぉぉぉ。ココはショーグンになれるのですか? ショーグンってやつになれやがるるですか』


 いやお前絶対に将軍の意味分かってないだろうと思いつつ、喜ぶココの姿に思わず笑いそうになる。


『私からもお願いします。ココはヴェルガー様がその才を認めた逸材。私も尽力して庇護しますので同行の許可を』


 畳み込むようにミカエラも頭を下げてお願いする。


 ゴルゴルとポルポルは困惑したままココを見る。


『ココよ、本当に二人に付いて行くつもりなのだな』


 どことなく寂しそうにポルポルが尋ねる。


『……ココはじじぃが言っていた悪魔を倒せるようになりたいのです。悪魔を倒せるようになればじっちゃんでも守れなかったこの村だって守れるようになるです』


『ならば俺も約束しよう。この村が窮地に陥ったのなら必ず助けに向うと』


『分かりました。ココが旅立つのは寂しいですが、我々の一族の諺に、強き猫耳族アイルリアンは深淵の谷より這い上がってこそ百獣神セリオンに至るとあります。きっとココなら数多の試練を乗り越え強くなってくれるでしょう』


 ゴルゴルも厳しい表情から一転してココを見守るような優しい表情に変わっていた。

 血は繋がっていなくても、この村は互いに繋がり合う良い村なのだろう。


『感謝する。ゴルゴル殿。それからポルポル殿も』


『儂はやはり人間族など信じられぬ。しかしココの意思とミカエラ様の言葉は蔑ろに出来ぬ。だから頼む。お主が人間なんていう小さな器ではなく、本当に覇者となる大きな器なら、その力でココを守ってやってくれ』  


 ポルポルが悔しそうに頭を下げる。ココの為に。


『安心しろ。ココはすぐに強くなる。それこそ俺の庇護などすぐに必要なくなるくらいにな。それこそさっき族長が言っていた百獣神セリオンとやらにさえ本当になれると思うぞ。ワッハッハ』


 俺の言葉に嘘偽りは無い。

 百獣神セリオンというのが何かは知らないが、ココの才は珠玉そのもの。

 磨いて光らないなら磨き方が悪い。

 つまり俺の責任だ。


 しかし、俺がそんな才能の原石を無駄に削り潰す事などあり得ない。

 それは前世でも実証済だからだ。





ココ

種族 猫耳族アイルリアン

武力 A

用兵 D−

知力 E

政務 F

魔力 ―

魅力 B+


《アビリティ》

 危険予測


《種族特性》

 獣性(猫豹)/剛爪/暗視/遠耳/ナインソウル


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