覇者は思いを知る
娘達を農村に届けた後、付いてきていた炎莉に乗り急いで砦に戻る。
砦に着くとすぐに項垂れているミカエラを見つけた。
悲壮感漂うその背中に、俺はゆっくりと近づき声を掛ける。
「ミカエラ戻ったぞ」
「……はいヴェルガー様。済みませんでした取り乱してしまって」
「構わない。薄々は感じていたからな」
ミカエラが罵った時。ミカエラの奥底にある人間に対する憎しみを垣間見た気がした。
微笑みの裏に隠した本音。
それは親しくなった後も感じていた違和感の正体かもしれない。
「……そうでしたか、上手く隠せていたと思ったのですが」
「分からないな、なぜそこまで人間を憎むお前が俺に協力する?」
「綺麗事を言うなら貴方なら人間族を変えてくれると思ったからです。でも、心の何処かで望んでいたのかもしれません。貴方が多くの人間を殺す事を、最初に会った時見せられたビジョンで貴方の中には獰猛で冷徹な獣を飼っているのが分かってしましたから」
ミカエラの言う通り、大陸に覇を唱える以上綺麗事だけでは終わらない。
俺自身が戦の火種になるのだから。そうなれば戦になり、否応なしに人は死ぬ。そして俺はその屍達を踏み越えて行く覚悟など等にできている。
「そうか、ならば引き続き俺に付いてこい。お前が見たい人間共の屍を思う存分に見せてやる」
「酷い人ですね。私が人を憎みながら、人を殺めることに罪悪感を抱いているのも分かっているのでしょう」
それも薄々感じていた。良くも悪くもミカエラは甘い。全を憎みながらも、個には優しさを見せてしまう。だから完全に相手を憎みきれず葛藤が生まれる。
「だからこそだ。俺の覇道を進むには避けて通れぬ。ならばその業は全て俺が背負うべきもの、お前はその為の道具となれば良い」
「ふふふっ。本当に酷です。貴方という方は、本当に…………分かりました。ヴェルガー様、お言葉通り、私の罪を背負って下さい。代わりに私は命の恩人としてでなく、貴方の道具として付き従います」
「そうか決まりだな。なら今日からミカエラは俺のものだ。だから安心しろ、俺は自分の道具は何より大切にするからな。ミカエラのことも何より大切にしてやる」
ここまで言えばミカエラも多少気が楽になるだろう。きっとミカエラは戦う事には向いていないのだ。だから戦の生き死に責任を感じていてしまい、強いストレスになってしまう。それなら戦う理由を俺の責任にすれば良い。欺瞞だろうが逃げ場を作ってやれば罪悪感も少しは軽くなるだろう。
まあこれが俺に出来る精一杯の配慮だ。
「あのヴェルガー様。その物言いですと勘違いしてしまいそうです」
「なぜそうなる? 道具扱いとか我ながら酷いことを言っているのだぞ」
「でも大切にしてくれるのでしょう」
美しい瞳がまっすぐ俺を見る。意味ありげな笑みをたたえ。
「もちろんだ。俺は自分から手に入れたものは絶対に手放さい」
俺は力強くミカエラに手を差し出す。
ミカエラは躊躇なくその手を取る。
絡み合う視線。
お互いの思惑を探り合う。
そこに苦しげな声が横から聞こえてきた。
その声に思わず我に返り、気付かせたくれた。
こんな事をしている場合ではなかったと。
俺は改めて、ミカエラに獣人の娘の容態を尋ねる。
「彼女はなんとか一命をとりとめました。しかし喉も潰され、足もあの様子では歩く事は出来ないかと」
「この娘の故郷に心当たりは?」
「その……実は彼女とは顔見知りで名前はネネ。猫の耳と、その……切られていましたが、長い尻尾が特徴の
「そうか、ならばそこに寄るとしよう。ただ、そうなるとその娘を運ぶ為の荷台などあれば最良なんだがな」
俺は砦の周囲を見渡しそれらしいものがないか探す。炎莉には悪いが、馬車として引かせるための荷台でもあれば最良だ。
「ヴェルガー様、ありがとうございます。実はそう言ってくれると思って、奴らが略奪した品々を回収する為に使っていたと思われる。馬用の荷台を見つけておきました」
「手回しが良いな。さすがだ」
手を打ち良くやったと示すと、早速炎莉に荷台を繋ぐ事にする、プライドの高い炎莉のことなので嫌がるかと思ったが、ミカエラがお願いという名の圧を掛けると大人しく従ってくれた。
それから猫耳族の娘を横に寝かせると、ミカエラが寄り添い俺が御者代わりをする。
ミカエラによると猫耳族の村は、元から俺が行く予定にしていた獣人の街が有った場所にあるとのことなので、そこに向かった。
◇
【ミカエラ】
種族 フォレスト・エルフ
武力 C
用兵 C−
知力 A+
政務 A
霊力 S
魅力 S+
《アビリティ》
精霊術(風)/弓術/交渉術/制約
《種族特性》
神樹の加護/容姿端麗/遠目/夜目/遠耳/マナ感知
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