覇者は謁見する

 ミカエラの口利きもあり、予定より早く俺はエルフ達の本拠地ユーフォニアへの立ち入りが許された。


 人間では百年ぶりらしい。


 どうやらミカエラは三賢老と呼ばれるエルフを取り纏めているお偉いさんの娘らしく、人間で言う所の貴族的な立ち位置の人物だったようだ。



「ようこそユーフォニアへ」


 ミカエラに案内され、たどり着いたユグラシードのお膝元、大樹の街。そこは森の木々と融合した前世も含めて見たことの無い光景だった。

 俺は神秘的かつ幻想的な景色に心躍らせる。


「ほぉ、想像した以上に凄いな。これがエルフ達の街か」


 無機物を感じさせない究極の自然との調和。

 人間では不可能と思える独特の空間。

 本当にこの世界は面白い。

 荒れ果てた荒野が続く前世とは偉い違いだ。


「ふふっ、気に入っていただければ何よりですヴェルガー様」


「だから様はやめろ」


「そうは行きません。エルフは義理堅いのです。命の恩は命で報いる。助けてもらったもう一人の分も含めて二つ分の命。必ず恩に報いてみせますので」


「まったく、綺麗な顔して強情なやつだな」


「褒め言葉だけ、覚えておきます。ふっふ」


 何度目か分からないやりとり。

 ミカエラはアルカ語も分かるので、二人の時は俺に合わせて人間族の言葉で話してくれていた。


 ミカエラは俺と会話しながら、さらに街の奥、ひときわ大きな木がそのまま建物になったような場所に導く。


 建物の前では他のものより少し派手目な衣服を着た男のエルフが出迎えてくれた。


『ミカエラ様。客人もよくいらした。長老達が奥でお待ちです』


 男のエルフは丁寧にお辞儀をすると中に入るよう促してくる。


「ここは人間で言うところの謁見の間です」


「俺的には枝葉さえ分けてもらえればそれでいい話だったんだがな。この折角の機会、無駄にするのは暗愚というものだろう」


「ヴェルガー様。何度も言いましたが三賢老は必ずしも人間族に好意的とは限りません。それにユーフォニアに住む者ですらおいそれとお会い出来る方達ではないのです」


「ああ、分かっている。このチャンスをくれたミカエラには、感謝しているぞ」


「はい、ですがこのチャンスはヴェルガー様が自らの行いで掴み取ったもの。あの時に生きろと叱ってくれなければ無い未来でしたから」


 ここに来るまでに話して分かったことだが、ミカエラは初めて会った時の約束通り、俺にユグドラシードの葉の一枚くらいは下賜するように頼むつもりだったらしい。

 それは俺を敵に回さないようにする意味で。


 しかし俺に助けられたことで意味合いは大きく変わった。

 命を救ってくれた者への恩に報いるため、純粋に俺への恩を返す意味で、積極的に三賢老に働きかけてくれたようだ。


 結果。俺は葉を貰うどころか、エルフの有力者である三賢老へのお目通りが叶ったわけだ。




『おお、よく来てくれたな。娘を救ってくれた強き者よ。改めて感謝する。ありがとう』


 建物の中に入った先。

 待ち構えていたのはミカエラに良く似たエルフの女が笑顔で握手を求めてきた。娘と言う言葉が無ければ姉妹と勘違いしてしまいそうなほど若々しい。


『おお、良くいらした。我が息子の命も救って頂いたと聞いた。感謝する』


 もう一人の男も俺に礼を述べてくる。

 どうやらあの時に助けたもう一人の親らしい。


 なるほど有力者二人の子の命を助けたのなら、あまり人間とは関わろうとしないエルフがここまで歓待してくれるのも頷ける。


『お二人共。個人的な感謝はまた別の機会に』


 目を閉じたままのエルフの女が、テンション上がり気味の他二人を嗜める。


『おっと、そうでしたイルミナの言う通りですな』


『はあぁ、イルミナは固すぎなのだよ。もう少しざっくばらんに話をしてもよかろうて』


 二人がそれぞれ違う言葉で返す。


『ウリエラ。私もヒュドラ討伐の件で感謝はしているのですよ。だからこそユーフォニアを代表して感謝を示さなければなりません』


 ウリエラと呼ばれたミカエラの母親はやれやれと言った表情で頷く。


『おっと。客人に見苦しいところをお見せしたな。申し訳ない。改めて紹介させて頂くと、わしの名はヨゼフ。中央にいるのがイルミナ。そしてこちらがミカエラの母でもあるウリエラだ』


『うむ。紹介感謝する。もう聞いてるかもしれないが俺の名はヴェルガー。今はただのヴェルガーで通しているが、いずれは大陸の覇者となる男だ』


 俺は三人の権威に怯むことなく告げる。

 これは三人に会えると聞いた時点で考えていた事。

 俺が今後覇道を歩む上で各勢力からの助力は必ず必要になる。なら人間相手にことを構える事に忌避感がない相手が好ましい。

 そこで考えたのが人間族から亜人と呼ばれる勢力。彼らがどれだけ人間を脅威と考えてるかでも対応は変わる。

 まあ、一番の問題点は俺のこの発言を、ただの妄言だと片付けられてしまう可能性が高いことだろう。


『なるほど、大陸の覇者ですか……』

『フッハハハ。人間のしかも魔術師でもない者がこれは大きく出たな。典型的な大物かバカのどちらかであるな』


 イルミナとウリエラは俺の言葉に一定の反応を示す。


『お二人共、そのこれはおそらく人間族のジョークというやつで場を和ませようとしてくれたのでは?』


 ヨゼフはどうやら俺の真意を曲解して捉えたようだ。


 なるほど、俺は三人の賢人と言われるエルフ達をそれぞれ見渡すと、少しだけ本気を垣間見せる。

 空気が変わったのを察した三人の視線が一斉にこちらに集まる。


『ほお』

『いいねー』

『まさか』


 流石は三賢老様達。どうやら俺の本気が伝わったようだ。


 

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