覇者は助けに入る
女エルフと約束を交わして二日目の昼。
燻製肉をかっ喰らっていると妙な気配を感じた。元を辿ってみると、四つ首の大蛇が件のエルフ達を襲っている場面に遭遇した。
もう、その場に着いた時には既に四人は事切れた様子で、もう一人のエルフも顔面蒼白で虫の息に見えた。
かろうじてひとり残っていたあの美しいエルフの女が必死に仲間を守っていた。しかしどう見ても風前の灯火。
咄嗟に思考を巡らせ、ここで恩を売るのも悪くないと判断し、
『ここは俺に任せろ』
古代メナス語でそう告げると、エルフの女が焦ったように言葉を返す。
『あなたは……行けませんいくら腕に覚えがあっても相手はヒュドラの幼体。一人で敵う相手ではありません』
そんな彼女の言葉を聞き流すと、俺は気を瞬間的に開放し、アダマス鋼の短戟で一閃する。四つの首を全て薙ぎ払われた大蛇は動きを止めた。
しかし大蛇はそれで死ぬこと無く、驚くことに全ての首が再生を始める。
「なるほど。世の中は広いな、こんな化け物が存在するとはな」
俺はひとり感心すると、短戟を剣に持ち替える。
スピードを最大限まで上げるため、軽功で体を軽くすると、再生し続けるヒュドラの幼体を、再生しなくなるまで斬り刻み続けた。
それを見ていたエルフの女は絶句し思わず声をあげた。
「オパァ」
聞き慣れない発音に少しだけビックリしつつ、俺は完全に再生しなくなった事を確認して剣を納める。
『大丈夫か?』
どう見ても大丈夫そうには見えないが一応声を掛ける。
『済みません。私とこの者は……ですが毒をもらってしまいこのままでは』
ただでさえ白いのに、さらに真っ青な顔でエルフの女が告げる。
残念ながら、俺は魔力がないので治療魔術なんて使えない。
この女自身解毒の魔術など使えないのかと一瞬思ったが、使えるのならとうに使っているだろうとの結論に達した。
『毒を中和する方法はないのか?』
折角助けたのに毒で死なれたら元も子もない。俺は何か方法はないかとダメ元でエルフの女に尋ねる。
『この先の我々の村に戻れば解毒薬は……しかし、許可なくよそ者に場所を教えるわけには』
この期に及んでそんな事を言い出すエルフに俺は叱責する。
『馬鹿者が! つまらんしきたりに縛られて命を無駄にするきか? 助けられた癖に、恩を返さぬまま死ぬなど恩知らずも良いところだ。お前のなすべきことはまず生きて俺に恩を返せ。文句を言うのはそれからだ』
『ぐっ……無茶苦茶ですが、貴方の言う事にも一理ありますね。済みません、道を、道を案内しますので連れて行って頂いても?』
『ああ、まかせろ。直ぐに行くぞ』
俺は虫の息のもう一人のエルフを背中に背負い。
女の方を横抱きに担ぎあげる。
『なっ、なにを』
『黙れ。とろとろ歩いてたら間に合わなくなる。分かったらとっとと道を教えろ』
抵抗気味だったエルフの女は黙り込むと指で方向を指し示した。
俺は全速力で村の在る場所まで向う。
しばらくエルフの女の指示通りに進むと、高い木の柵で守られた集落が見えてくる。
俺は少しだけ安心し、助けた二人の息遣いを確認する。まだ何とか息はある大丈夫そうだ。
俺は真っ先に目に入った見張りらしきエルフの男の元に駆け寄り声を掛ける。
『ヒュドラの毒にやられている。急いでくれ』
男は突然の訪問に驚きながらも、二人の状況を察し、すぐに仲間を呼ぶと治療に当たらせた。
俺はというと、村の中に立ち入ることは許されず、外で待たされる羽目になった。
しかし、すぐに村の代表と思われる人物がやってきて感謝された。
どうやら俺の判断は間違っていなかったようだ。
それから村の中に案内されると、歓迎の席を設けられた。
あの女エルフの様子からもっと排他的な対応を想像していただけに拍子抜けの感もある。
その日は食事を御馳走になり、そのまま村に泊まることを許された。
翌日。少しだけ顔色が良くなったエルフの女が俺の元を訪ねてきた。
『もう、出歩いて大丈夫なのか?』
『はい……私の名はミカエラ。この度は命を救って頂きありがとうございます』
ミカエラと名乗ったエルフの女は深々と頭を下げお礼を述べた。
『いや良い。命を繋いだのなら何よりだ。もう一人の方は?』
『彼も無事です。ただ怪我も深かったので当面起き上がることはできませんが。彼の事も含めて本当にありがとうございます』
エルフの女はそう言ってもう一度頭を下げた。
『構わんと言っている。何より俺も打算があったわけだからな』
『打算ですか?』
『ああ、上手く取り入ればユグラシードの枝葉を分けてもらえると思ってな』
『なるほど。ふっふっふ。貴方という人はバカ正直でいらっしゃるのですね……あの、もしよろしければお名前をお聞きしても』
恥じ入った様子で俺の名を尋ねるミカエラ。
エルフの中では名を尋ねるのは照れくさい事なのだろうか?
まあ、正直どうでもよかったので俺はそのまま名を告げた。
『俺の名はヴェルガー。いずれ世界の覇者となる男だ。よろしくなミカエラ』
俺は友好の意味を込めて手を差し出す。
『……はいヴェルガー様。これからもよしなに』
そう言ってミカエラは照れくさそうに、そっと俺手を握ってくれたのだった。
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