覇者は次の目的地に向う
西の平原からの帰りは
ところがここでひとつ問題が発生した。
炎莉がミカエラを乗せたがらなかったのだ。
彼女はプライドが高い。おいそれと認めてもいないものを乗せたがらないのだろうと察した。
だが流石にミカエラだけ歩いて帰れと言うのは俺でも鬼畜すぎる所業だ。
困っていると、ミカエラが少し話してきますと、
しばらくすると、やけに大人しくなった炎莉を引き連れて戻って来たミカエラが言った。
「女同士で話し合ってきました」
まさかの展開。
俺が一日かけた偉業を、数分で成し得るとは。
ミカエラの事を俺は少し見くびっていたようだ。
「いや、凄いなどうやったんだ」
「ふっふ、ちょっと分らせてあげただけですよ」
……どうやら女同士の世界では、男には分からない何かがあるようだ。
覇者としての勘も深く詮索するなと言っている。
というわけで問題が解決したので、俺とミカエラを乗せて炎莉は森の中を駆け抜けた。
その速度と持久力は本当に伝説を思わせ、おかげで二人乗りでも二日で山麓の村まで戻る事が出来た。
村に戻った後はさらにアダマス鋼の精製技術を伝授するのに時間を費やし、ようやく村の鍛冶師だけで精製出来るようになったところで旅立つ目処が立った。
「ヴェルガー様。次の目的地はどこにしますか?」
相変わらず目敏いミカエラの問に俺は答える。
「魔鉱石の供給元の確保だな」
鉄鉱石はこのユーフォニアでも安定して採れるらしいが、魔鉱石はどうして少量しか採れない為、今後アダマス鋼の量産にはどうしても魔鉱石の供給元が必要になる。
「でしたら、鉱山都市アルコニルなどどうですか、あそこは人間族の支配領ではありません。治めているのはエルダードワーフ。ドワーフ族の古老です」
ミカエラは準備していた地図を広げると、ファルファリス大森林から北東にあるガランコルム山脈の麓を指し示す。
俺もアルコニルについては本では読んだことがある。何でも三百歳を超えるドワーフが街を統治しているとか。
距離的には炎莉で行けば一ヶ月といったところだろうか。
俺は地図を眺めながら、もう一つ気になった地点をミカエラに尋ねてみる。
「ミカエラ、この場所にはなにが?」
そこはガランコルム山脈を源流にしたコルコルム河の、森林に囲まれた中流域にある開けた場所。
地図には何故かそこに丸印の上にバツ印が記されていた。
「ああ、そこは獣人の猫耳族の都市があったのですよ」
あったと言う事は、もう無いのだろう。
恐らく理由は。
「そうか、人間に滅ぼされたのか」
「はい、百年前くらいだったかと、人間族が猫耳族を奴隷とする為に襲ったのです。私も約条に従い救援に向かったのですが、時すでに遅く、街は壊滅状態でした」
厳しい表情がその時の惨状を物語っていた。
前世では基本的に俺は奴隷制度には反対の立場だった。しかし弱肉強食の荒廃した世界にはそうやって身を落とさなければ生きられない人々が居たのも事実。
だがこの世界は違う。食糧事情が逼迫しているわけでも無く、飲水を探して水源を探し回る必要も無い、俺からすれば恵まれた世界だ。
なのに人は満たされることなく他者を蹂躙する。
「世界が変わっても人の業は変わらないな」
俺の呟きが聞こえたのかミカエラが不思議そうな顔で俺を見る。
少し感傷的になってしまっていた俺は誤魔化すように目的地を告げる。
「アルコニルに寄る前に一度ここを訪れようと思う」
そう言って俺が指差したのは獣人達の街があった場所。
ミカエラは驚きの表情を隠せないまま反対する。
「ヴェルガー様。先程申し上げた通り、そこには今は何も」
「そうかもしれないな……でも違うかもしれない」
それは何となくの覇者の勘。しかし俺はそれに今までずっと助けられてきた。
ならば、今は俺の直感に従うのみ。
「……分かりました。ならばヴェルガー様に直接見て頂くのみです。彼の地を……」
そう言ってミカエラは険しい表現で地図を見続けていた。
それからは目的が定まった事もあり、行動は迅速だった。すぐに旅の準備を進め、いつでも旅立てるよう身支度は整えておく。
言わなくてもミカエラは付いてくるつもりらしく、彼女も旅の準備をしていた。
あと俺は今回の旅に持っていきたいものがあったので、その品が届くのを待っていた。
そして数日、ようやく待ちわびた品が届けられた。
「うわぁ、これ扱えるのですか?」
届け物を一緒に見ていたミカエラが驚いて質問する。
「ああ、俺の腕なら問題ない」
届けられた品を手に取り早速弦を引いてみる。
張はキツめで、依頼した通り申し分ない、大きさも馬上での取り回しが苦にならない大きさ。
前世のバトルボウと比較しても遜色無い。やはりエルフの弓の製作技術は抜きん出ている。
「まさかヴェルガー様が弓まで嗜むとは、しかも複合弓なんて、我々でも滅多に使いませんよ」
ミカエラはそんなことを言っているが、ミカエラの弓も複合弓だ。それを見たからこそヨゼフに依頼し俺用の弓を作ってもらっていた。
対価として色々とこき使われたがこれだけの弓が手に入ったのなら文句は無い。
「あの、ちょっと引いて見ても良いですか?」
自分の得物と比較したいのかミカエラが興味を示したので、弓を渡す。
ミカエラは手に取ると弦に指を掛け引っ張ろうとする。
「えっ!? これどれだけキツく張ってるんですか、私の力じゃ引けませんよ」
全く引けないのが悔しかったのか、ふくれ面を見せるミカエラが珍しく、思わず笑ってしまった。
「ああ、笑いましたねヴェルガー様。私怒りましたよ。こうなったら勝負です」
突然勝負を吹っかけてくるミカエラに困惑しつつ、これも一種のお遊びなのだろうと悟り、付き合うことにした。
勝負は十本勝負。だいたい百メルほど離れた的に射掛けて命中した本数で勝敗が決まる。
そして結果はお互い十本中十本で外すことが無かった。つまり引き分けだ。
「やるなミカエラ」
「いえ、私の負けです。ヴェルガー様の矢は的のほぼ中心を射抜いてましたから、それに何ですかその威力。毎回的を破壊するなんて破格すぎです」
「これは完全に弓の性能だ。それを言うならミカエラの弓だって本来は精霊術と併用して使うのだろう。なら本来の力を発揮出来なかったということになるだろう」
ミカエラの弓には精霊銀のショートソードにも彫られていたゴッズ文字が刻まれていた。つまりあの弓も精霊術を纏わせるなり出来るのだろう。
「ふぅ。そこまで見抜かれているのですね。分かりました悔しいですが引き分けで良いです」
負けが引き分けになったのに悔しい理由が俺には分からないが、所詮はただの遊びだ。
それにまたミカエラのふくれっ面が見られたので良しとしておこう。
「ところでミカエラ。この弓も届いたし明日には出発しようと思う」
「分かりました。私も準備は出来てますので、あと二人乗り用の鞍も準備しおきましたから」
「まったくいつの間にそんな物を……まあ良い、明日はは早いからな、ちゃんと起きろよ」
俺はそう言って釘を刺しておいたが、案の定ミカエラは寝坊した。
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