覇者は野盗に遭遇する

 炎莉に乗って四日目だった。


 ミカエラの事もあり、近くに人間の農村はあったのだが寄らず。見晴らしの良い平原で休憩していると、黒煙が立ち昇るの見えた。

 煙の登り方からして人為的なもの、恐らく野盗にでも襲われたのだろう。


「ヴェルガー様。どうされますか?」


 ミカエラからすれば人間族の村を助ける義理は無い。それでも俺に聞いてくるのは元来の義侠心からだろうか。


「見て見ぬ振りして捨てておくのは容易い。だがそんな事なかれ主義が覇者として相応しいと思うのかミカエラ?」


「愚問でした。では向かいましょう」


 ミカエラに同意するように炎莉もいななく。


 俺とミカエラを乗せた炎莉は襲歩でまたたく間に、村の近くまで接近し、様子が見渡せる位置まで移動する。


 思ったより火のまわりが早く、すでに村の半分ほどが燃え上がり、村人はただ逃げ惑うだけで消火もできていない。


 当然だろう、逃げ惑う村人を楽しげにヒャッハーっと追い回す男共がいれば。

 数はざっと見で二十余り、どう見てもならず者だ。


『ミカエラは暗闇に隠れて弓で狙撃を、あと矢尻は普通の鋼を使え』


『分かりました。それでヴェルガー様は?』


 ミカエラの問い掛けに俺は槍を取り出すと、石突の部分に、馬上用を想定していた追加兵装の八十セルの穂先を装着する。先端共に両刃の槍は至極色扱いにくいが慣れた俺なら問題ない。


 俺の意図を察したミカエラは馬から降りると、素早く炎上していない側の屋根に登る。


 ミカエラの射線が被らないようにしつつ、村人とならず者達の位置関係を見極め、上手く分断出来るように突撃を開始する。


 突撃と共に馬上から、残念ななまくら装備を振り回すならず者の首を数人刎ねながら駆け抜ける。炎莉も負けじと目の前を遮るならず者達を踏み潰し跳ね飛ばす。

 ミカエラも見事な腕前で孤立しているならず者の頭を射抜き確実に間引いて行く。


 突然予期せぬ攻撃にならず者連中は完全に浮足立つ。そんなやつらを首を刎ねながら、追い詰めつつ誘導するのは容易い。

 やはり人間族は魔術師でなければ造作ない、ましてなまくらを振り回すだけの烏合の衆など俺の練習相手にもならない。


 期待ハズレも良い所だ。

 消化しきれない昂りを抑え込み。

 逃げ惑うならず者達を一人また一人と始末して行く。


 そして最後になった一人が怯えながらこんな事を言った。


「こんな事してただで済むと思っているのか、俺達のボス。大魔術師ギエン様が黙ってねぇぞ」


 最後の最後に面白い情報が聞けた。

 まさかここで魔術師相手に実戦が出来るとは思っていなかった。

 魔術師は基本国から優遇されるので出奔するのは余程の風変わりな変人か、手のつけられない極悪人位なものだろう。


「言え、そのボスはどこに居る」


 首元に槍を突きつけ脅す。

 どうせこのような輩に忠誠心など無い。


「ひぃぃ、砦です。ここから北東に行った所にある使われなくなった砦をアジトにしてて」


 案の定。残っている人数は二十人余りだとか、聞いていない事までペラペラと話し始める。



「それで周辺の村々を襲っていたと」


「仕方なかったんだ。俺たちも生きるために」


「キサマらの事情など知らぬ」


 生きる為の略奪。前世でもよくあった事だ。

 だから俺はそこまでこの野盗達を悪だとは思わない。ただこうは思う。奪うのなら奪われる覚悟もしなければならないと。

 そう例えば自分の命だってそうだ。


 俺は情報を聞き出した後、容赦なく男の首を刎ねた。


 最後のならず者達を片付けたと同時に、闇に隠れて俺の元に戻ってきたミカエラに声を掛ける。


「ご苦労だったな。手間を取らせた」


「いえ、それでこの後はどうしますか?」


 ならず者を全て片付けたのだから、村は自分たちでなんとかするだろう。それよりも優先すべき事が出来た。

 

「北東の砦。そこを根城にしているようだ」


「ではそこに」


「ああ、なんでも頭目は大魔術師らしい。試し切りには丁度良い」


「試し切りですか、ふふふっ、何ともヴェルガー様らしいですね」


 ミカエラはそう言って微笑むと風のように舞い上がり、くるりと一回転して見事俺の後ろに騎乗する。無駄にかっこつけてるな。


「ヴェルガー様の真似ですよ」


 俺の心を読んだかのごとく、後ろからミカエラが耳元で囁く。

 実は耳元が弱いので、背筋にゾクゾクとする感覚が走りむず痒くなる。


「まあ良い、行くぞ」


 気を取り直した俺は、掛け声と共に炎莉を駆る。振り落とされないようにミカエラが俺に強く掴まる。

 そうして炎莉が再び全力で飛ばし、半日も掛からないうちに砦へと到着した。


 

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