覇者は狩りをする
ヨゼフとの制約は終わったが、ミカエラが個人的な誓いをすると言うので立ち会おうとしたら、やんわりと断られ、ヨゼフと共に少し離れた場所で待っている様に言われた。
そこからしばらく様子を見ていると、俺とヨゼフの時のように光の柱が天に伸びる。そこまでは一緒だったが、次に空から光の粉が舞い降りて幻想的な景色を写し出した。
『あやつめ』
ヨゼフが何かを悟ったのか厳しい目をミカエラの方に向ける。
『何だ俺達の交わした制約とは違うのか』
『ああ、そうだ。あれは……まあ良いヴェルガー殿が気にすることでは無い』
気にならないと言えば嘘になるが、必要があればミカエラ自身が自分の口で語るだろう。
俺はヨゼフの言葉通り気にしない事にした。
その後はミカエラが少し疲れたと言うことで、その場でキャンプすることになった。
ヨゼフが精霊術で、土壁を円形に張り巡らせ安全を確保するとそこを寝床にした。
一応、警戒を怠ることなく周囲に気を配らせたが、特に異変は無く無事に朝を迎えた。
相変わらず寝起きの悪いミカエラを起こし、ヨゼフにも声を掛ける。
『ヨゼフ殿はこのあとどうする?』
『わしは山麓に戻り次第。ユーフォニアへ盟約の件を話しておこう』
『分かった。では、これを渡しておく』
俺はアダマス鋼精製するための配分比率を記した紙を渡す。
『技術的なものは山麓の村の鍛冶師達に伝授しておけば良いか?』
『うむ。そうしてくれると助かる』
ヨゼフがそう言って軽く頭を下げる。
俺とヨゼフのやり取りで、何かを察したミカエラが小言のように俺に言う。
「はぁ、ヴェルガー様。私はヨゼフ様を山麓の村まで送っていきますが、良いですねご自重して下さいませ」
まるで駄目な弟を嗜める姉の様だ。
前世で良く、そういった光景を見せていた俺の配下だった姉弟を思い出す。
一応今の俺にも本当の姉は一人いるが、彼女とは一度も会話をした事無く、偶に遠目から見られている程度だった。
と、本題がずれてしまった。
俺は気を取り直して、すでに俺のしようとしていることを察しているミカエラに尋ねる。
「ミカエラ。この森で狩るべき優先度はなんだ?」
「最近はジャイアントキングパイソンが増えすぎていると報告が来ています。あとギガントグリズリーも間引いてくれるなら助かります。あっ、でも小型のリトルグリズリーは狩らないよにして下さい。それから滅多に会うことは無いと思いますが、白い牡鹿は絶対に狩っては駄目です。彼は森の守護を担う存在ですから」
「分かった。狩った獲物はここに集めておくから、回収する人員を寄越しておいてくれ」
「分かりました。では、私とヨゼフ様はもう行きますから……あの、お気をつけてくださいね」
最後は何だかんだで心配そうに声を掛けてくれたミカエラ。
彼女達を手を振って見送ると、早速狩猟に取り掛かる。
周囲の気配感知に引っ掛かった大物の中では、ミカエラが言っていたように、ジャイアントキングパイソンが多かった。
奴らの全長は優に十メルを超える巨大な個体ばかりで力は凄かったがスピードが無い。
ミストレルを試すには丁度良い相手だった。
そしてミストレルはその斬れ味を遺憾無く発揮し、簡単にジャイアントキングパイソンを頭を一撃で切り落とした。
成果としては六匹仕留め。
今度はギガントグリズリーを三匹ほど狩る。
その頃にはミストレルはすっかり俺の手に馴染んで、それこそ手先の延長のように扱えていた。
そこに覚えのある妙な気配を感じ、急いでその場所に向うと。
これは!?
大きく伸びた雄大な角。
通常の鹿よりふた周り以上大きな体。
何よりも目を引く白い毛並み。
ミカエラが言っていた白き牡鹿が、見たことのある四つ首の大蛇と睨み合うように対峙していた。
ミカエラから鹿は狩るなと言われたが、あの蛇は何も言われなかったからな。
俺は二匹の間に強引に割り込むと、槍を大旋回させヒュドラに接近すると首を刎ねて行く。
だがヒュドラはすぐに再生が始まる。
俺は前回と同様に再生速度を上回るスピードで攻撃を続けるため軽功を発動させる。
幸いミストレルの軽さは軽功でのスピードを殺さない。流石に剣ほどのスピードは出せないが、それでもヒュドラの再生を上回る連撃を繰り出すことが可能だった。
そして槍を縦横無尽に振り回し、完全にヒュドラを粉微塵にさせた後、後ろを振り返ると白い牡鹿がこちらを見ていた。
しばらく目を合わせ続けると、牡鹿はこちらに敵意が無いと分かったらしく、お辞儀をするように頭を下げその場から立ち去った。
俺はもう一度周囲の気配を探り、これと言った面白そうな気配が無いと分かると、前もってミカエラに言っていたとおりに、獲物を祭壇の場所へと集めておく。
「はぁ、これ一日で狩ったんですか?」
回収要員を引き連れてやってきたミカエラが積み上げられた獲物を見て呆れ顔で言った。
「ん? 言われた通りの奴しか狩ってないぞ、あと言われてなかったがヒュドラの幼体がいたから、そいつは始末しといた」
「えっ、ヒュドラの幼体がいたんですか、毒は、毒は大丈夫なんですよね」
慌てたミカエラが俺の体をまさぐるり毒を受けてないか確認する。
いや、ヒュドラの毒を食らってたらこんなにピンピンしてないだろうと言いたかったが、心底心配している様子だったのでされるがままにしておいた。
「……ふぅ、どうやら本当に無事なようですね」
ようやく俺に問題ない事を確認しミカエラが離れる。
そんな俺達の様子を他のエルフ達が奇妙なものでも見る視線で眺めていたのだった。
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