覇者は熱望する
『ココ。改めて紹介するわね。こちらはヴェルガー様。我らエルフの盟友でもあるのよ』
ココが落ち着いた所でミカエラが改めて俺のことを紹介してくれた。
『なんと。人間族のくせにエルフの盟友になりやがったと? 信じられないことですが、ミカエラ様が嘘つくわけありませんですし……』
『まあ人間族が信用できないのも経緯を聞いているから知っている。なので人間族としてではなく、この大陸を、いずれ鋼によって統べる覇者ヴェルガーとして受け入れろ』
『えっと、こいつ頭大丈夫でやがりますか?』
『ええ、大丈夫よ。ヴェルガー様は本気で仰ってるから安心して』
ミカエラは満面の笑みでココに告げる。
その笑顔の迫力に押し負けてココが頭を下げる。
『ごっ、ごめんなさいです。ココの早とちりでいきなり襲いかかったりして』
『ヴェルガー様。私からも謝罪します。私が先に入って説明しておくべきでした。申し訳ありません』
二人から謝られる。
俺としてはさほど気にするような事でもないので『わかった』とひとことで許しておく。
『ふぅ、良かったですねココ。ヴェルガー様が許してくれて』
『はいぃ。本当に良かったです。ミカエラ様もごめんなさいです』
『別に私は良いんですよ。それより村長の方々もヴェルガー様に気が付いてるかしら?』
『たぶんココしか気付いていないです。ココが一番気配に敏感でやがりますから』
『そうですか……』
ココの回答にミカエラが何かを考え始める。
『なら、先程言った通り、私が先に村に行って話をしてきます。あの娘の件もありますし。また勘違いされる可能性もありますし、その方が多少緊張も和らぐでしょうから』
『それならココも一緒に行くであります』
元気に手を挙げ賛同を願い出るココに対し、ミカエラは手で制しここに居るようにお願いする。
『もし、他の獣人の方が来たらちゃんとヴェルガー様のことを説明してください』
『うぅぅう、分かりましたです。ここはミカエラ様の言う通りにするです』
『俺はどっちでも構わない』
『では、なるべく早く戻りますので、エンリと荷台をお借りしますね』
ミカエラはそう言って村の方へと向かった。
俺とココはそれを見送ると、長らく沈黙が続く。
しかし沈黙に耐えきれなくなったココか口を開いた。
『やい、人間のヴェ、ヴェロベロロバー』
『違う。俺をその辺の人間と一括りにするな。あと名前はヴェルガーだ覚えにくいならヴェルで良い』
『ヴェロ……ヴェ、ベっ、ベル。うんそれなら何とか覚えれそうだぞ』
先程の敵意が嘘のように嬉しそうに俺の名を呼ぶ。
どうやらココ自身には人間に対する憎しみや恐怖は、言うほど無いのかもしれない。
想像に過ぎないが、親や大人達から人間は怖い者、危険な者として教えられた。だから真っ先に危険を排除しようとしただけ。つまり、ある意味で無謀で勇気ある少女なのかもしれない。
……うん。悪くないな!
『なあ、ココ。俺の家臣にならないか?』
『んん? カシン? カシンとはなんぞやベル』
『そうだな。ココにも分かりやすく言うなら、そうだな部下、家来、手下……そうだ、俺の子分になれココ』
たぶんこれならココにも通じるだろう。
『はっ、あんたやっぱり頭おかしいでやがりますです。やっぱり人間は危険です』
『別に危険は無いぞ。俺は家臣を見捨てないからな。武人として戦いで散るのであれば別だが、理不尽な死を家臣に敷いた事は無いぞ』
本人が望んで戦い生きるのならば、そこにおける生き死には武人の
むしろ誉れだとさえ思う。だからこそ、武人が戦場以外で理不尽に死ぬのは辛い。まあ戦いに赴かない文官などは別ではあるが。
『ならなら、ココを子分にしてどうするつもりですか、眉目秀麗なココを手籠めにするつもりでやがりますか?』
おおココのくせに、よく眉目秀麗や、手籠めなんて言葉知ってたなと思いつつ俺は本心を告げる。
『単純な話だ。俺がお前を気に入っただけだ。戦闘センスに光るものを感じたからな。磨けば輝く宝石なら手にしたいと思うだろう』
それは言葉通りで。
身体能力任せだったが、あの時のフェイントに俺の視線は釣られた。
おそらく戦いとは無縁な、こののどかな村で培わたとは思えない才能の煌きを確かに感じた。
『うがぁああ、なに照れ臭い事言ってやがりますか、そっ、そんな事でココが喜ぶなんて思ってやがりますかよ』
と言いつつ、ピョンピョン飛び跳ね。耳をピコピコさせ喜びを体現していた。
『別に照れ臭いことでは無いぞ。事実だ。俺が手解きすればお前は人間族の魔術師などに負けないほど強くなれる』
それこそ一対一なら俺と同じ様に立ち回ることだって可能だ。
『まっ、魔術師って人間の中でも特に危険で恐ろしい奴等の事ですよね。何も無い所に火を出したり、雷でビリビリさせたりする。ココ達の街を一度滅ぼした、悪魔のような存在だって、じじぃが言ってやがりました』
悪魔のような存在か、魔術に対抗しうる手段がなければそう思うのかもしれない。
『そう悪魔のようなヤツにだってお前は勝てる。俺の元で訓練すればな』
しかし俺には魔術に対抗する為の手段がある。
『つまり、ココは悪魔より強くなれるでやがりますか?』
目が爛々と輝き、期待に満ちた眼差し俺に向けてくるココ。彼女の本質は武だ。危険を省みず真っ先に俺に立ち向かったように。
『ああ、間違いなくココ、お前は強くなる』
それこそあの身体能力を考えれば格闘戦なら俺すらも超えてゆくかもしれない。
『……分かりましたです。でもココはまだお前、えっとベルの事を認めた訳ではないでやがります。だから、しばらく一緒に付いていってやるです。そこで色々と教えるです。それで、もし本当にベルがココの親分に相応しいと思えたら子分になってやがります』
目を見て分かっていた。
ココが小さな村で収まるような気質でないのは。
彼女は強さに憧れ、好奇心にあふれている。
そして俺は今ここに、その芽を潰さぬよう大切に育てて行く責任を負ったのだ。
ならば育てよう、覇者となる俺の片腕にさえなれる逸材として。
それこそ前世で俺の部下で、名を馳せた四天星の中でも最速だった
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