覇者は作り出す
数日遅れて約束通りユグラシードの枝葉が届けられた。
見ただけで他の木々とは違うオーラのようなものを感じたので間違いないだろう。
ミカエラも「本当に持ってきた」と驚いていたし。
俺は居ても立っても居られず、早速アダマス鋼精製の工程に入る。
ミカエラが見守る中、完全集中して作業に取り掛かる。
想定外だったのはエルフ達から提供してもらった鉄の質の高さだ。おかげでかなり良質な百錬鋼を鍛え上げることが出来た。
そしてその百錬鋼を魔鉱石の粉末と、ユグラシードの枝葉と共に、完璧な比率でるつぼに加え融合させる事でアダマス鋼は精製される。
ただサガムの親方の所で精製したトネリコを使った時とは反応が違い分量を幾分調整し直した。
そして完璧に調整されたるつぼを、頃合いを見計らい割り、中から出来上がったアダマス鋼を取り出す。
そこから出来上がったアダマス鋼で俺はまず剣を鍛造してみることにした。
極力切れ味を良くするため片刃にし反りをもたせる。前世では西方諸国でサーベルと呼ばれていた形状に近いものが最終的に完成した。
「オパァ」
出来上がった剣を見てミカエラが感嘆の声を上げる。
金属にも関わらずまるで樹木のような波打った綺麗な木目調の刀身。
鋼の色は角度によっては淡い陽の光をそのまま写したような薄黄金色の輝きを見せる。
正にこれこそが俺の求めていたアダマス鋼。
なかでもこれは、前世で打ったものすら超えている。まさに会心の出来といっても良い。
「ミカエラ。性能を試してみたい。精霊術を俺に向けて放ってくれ」
俺はもらった玩具を試して遊びたい、子供のような心持ちでミカエラに助力を頼む。
「えっと少しだけお待ちを、精霊たちが恐慌状態でいま術を使えば暴走してしまいます」
どうやら剣の存在だけで精霊を恐怖に陥れるようだ。これは想像以上にヤバい代物かもしれない。
でも……だからこそ早く試してみたい。
そんな逸る気持ちの俺を、躾けるように待ったをかけ続けるミカエラ。
結局、お預けを食らい続けた俺に念願のチャンスが回ってきたのは夕暮れの日か落ち始めた頃だった。
「お待たせしました、では行きますよ」
何気にミカエラが精霊術を使うところを初めて見る。
彼女は風の精霊【シルフィード】を呼び寄せる。すると風が渦を巻き馬のようなシルエットを形成する。どうやらまだ興奮気味なのかミカエラが首筋を撫で落ち着くように促す。
「こちらはいつでも良いぞ。やってくれ」
「分かりました。では【
ミカエラはそう言った後、シルフィードに『大気を弾け』と語りかける。
するたシルフィードの全面に空気の層が渦を巻くと球状の形となる。
「これは!? まずいです。ヴェルガー様避けて」
ミカエラのその叫びと同時に、空気の弾丸は周囲に轟音と衝撃波を放ちながらこちらへ一直線に向かってきた。
身に感じた危機感から、一瞬拳で相殺しようかとも考えてしまった。だがしかし、それでは試験にならない。
俺は構えを解くことなく剣先だけを空気の弾丸に向ける。
すると空気の弾丸は剣先に触れたとたん、何事もなかったかのように霧散し、凪いだ海のように静かになった。
「オパァ」
ミカエラから本日二度目の感嘆の声が漏れ出る。
「成功だな。この分なら人間の魔術も切り裂く事は可能だろう」
まだ魔術で試したわけではないので、絶対というわけではない。しかし手応えからほぼ間違いなく魔術にも有効だと思えた。
「済みませんヴェルガー様。シルフィードが興奮して本気で排除に掛かったみたいで、想定よりも危険な威力の【
シルフィードを解き放ったミカエラがこちらに近づくとすぐさま頭を下げてきた。
「いや構わないぞ。むしろあの威力の精霊術を無効化出来たという事実のほうが重要だ」
「ええ、そうですね……ヴェルガー様、改めて問います。その刃が我々エルフ族に向くことは無いのですよね」
今更ながらアダマス鋼の恐ろしさを実感したミカエラが神妙な顔で尋ねてくる。
「そうだな。確かに俺は覇道を突き進む覚悟を決めている。しかし無闇に敵を増やすして行くほどバカではないつもりだ」
俺としてはエルフ族には有力な後ろ盾のひとつとなって貰いたい。なによりアダマス鋼の生産にはユグラシードの枝葉が不可欠。
そしてユグラシードを維持するのは長年共存してきたエルフ族以外は考えられない。
なら俺と彼らとで敵対する事で得られるメリットなど無い。
ただこれはあくまでユグラシードの枝葉を供給してくれるという前提条件の上ではあるが。
「分かりました。その言葉を私は信じます。その上で私はエルフ族の名代として貴方に付き従う事をここに誓います」
その言葉は恩人に対する感謝からなのか、それとも一族の存亡を担う長老の娘としての言葉なのか、真意は分からない。
しかしミカエラの目の輝きには、俺を頷かせるだけの魅力を感じた。
「ミカエラ……その言葉しかと受け取った。これからも宜しく頼む」
俺は跪くミカエラに手を差し伸べる。
「はい。個人的にも色々とお返ししていきますので期待していて下さい」
顔を上げ俺の手を取るミカエラは、そう言って柔らかな笑顔を見せてくれたのだった。
――――――――――――――――――――
読んで頂きありがとうございます。
続きを書くモチベーションにも繋がりますので
面白いと思っていただけたら
☆☆☆評価を頂けると泣いて喜びます。
もちろん率直な評価として☆でも☆☆でも構いませんので宜しくお願いします。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます