第35話 あとは頼んだ
「ラッシュ!!右三体、僕がひきつける!!」
矢が無くなったウルカが前線へ飛び出した。それに続きカムイも走り出す。
「中央の奴ら吹っ飛ばすわよ!!その隙にポーションつかいなさい!!」
ラッシュの体力が限界に達している気配がする。敵も今までの奴らとは違いフェイントを入れてきたりと多彩な攻撃をしてくる。ダンジョンの魔獣と比較にならない程レベルが高い。消耗が激しいのは当然だ。
「おお!!りょーかい!!」
目まぐるしく流れる戦況。タンクであるラッシュがやられ少しでも陣形が崩されればあっという間に全滅するのは明らかだった。あたしたちは今、綱渡りをしている。断崖絶壁を繋ぐ細い細い綱を。
体の奥底から魔力をひねり出す――
「アルフレア――!!!」
――灼熱の火炎が前線の魔族を焼いた。しかし先ほどまでとは何かが違う。
(なんなのよ、これ!!倒しきれないじゃない!!)
いや、わかっている。おそらくはあれだ。後方にいる霧のような魔人族、【エビルスモッグ】【ブラッドスモッグ】……奴らが前線で戦っている魔族に防御バフをかけ回復も行っている。
(パーティー戦闘の基本、ヒーラーを叩く。あのダンジョンと同じ)
「ウルカ!!」
「うん!!わかってる!!」
――当然ウルカも理解している。だからこそなんども道を拓こうと陽動をかけていた。でも、打ち破れない。まあ、魔族側も理解しているんだから当然ね。
「ちょっと時間もらうわよ!!」
とにかく高火力で一点を打ち抜く。魔法耐性のある魔族を集中させたあの鉄壁を一気に崩壊させるほどの威力がある焔で。
(――MPを全消費、リキャスト時間無効化)
あたしの魔法による手数が消え、ラッシュの負担が増していく。ほんと器用な人だ。ぎりぎりのはずなのに瞬時に適応し受けきっている。集中力の成せる業なのだろう、鬼気迫る表情に畏れすら抱く。
ウルカの周囲にぼんやりとした白狼が出現した。あれは彼女の武器の固有スキル『血叡の秘術』……白狼の亡霊を4体召喚し、戦わせる。あたしのやろうとしていることが分かったのだろう。
(よし!MPが回復した!!)
「ラッシュどきなさい!!『紅蓮砲焔』!!!!」
紅蓮の閃光が瞬きど真ん中に道を作る。そこをカムイを筆頭とした白狼たちが駆け抜けた。狙うはヒーラー。
(――ヒーラーの殲滅はあの子たちに任せる!!それであたしたちは前線を維持して)
「ぐあああああーっ!!」
ラッシュの叫びに背筋が凍り付く。視線を戻すと魔力の盾が消えてしまっていた。二刀の剣で【忌鬼】の大斧を受け止めている。しかし激しい戦闘で疲労が蓄積、攻撃が受け止められず肩に刃が食い込んでいた。傷が深く、ぼたぼたと血が流れ落ちている。
「――ラッシュ!!?」
「――ま、まずい!!」
がくりと片膝をつく。他の魔族たちが勝機と判断し、ヒーラーのフォローへ行かずにラッシュへと押し寄せてきた。
――死ぬ。
あの状態ではポーションも使えない。カバーも出来ない。MPが無い。ウルカもMPはないだろうし、矢ではどうにもならない。
時間の流れがゆっくりと進み、ラッシュがこちらに笑いかけているのが見えた。
「コクエ!!ウルカ!!あとは頼んだぜ!!!!!」
振り下ろされた斧にラッシュの右腕が落とされた。
宙に舞うラッシュの腕。
魔力は未だ戻らない。
――ああ、きっとあたしのせいだ……あたしが負担をかけたから。
からん、と杖が手から落ちる。
ウルカが何かを叫んでいる。
魔族たちの怒号の中確かにラッシュの声が聞こえた。
「――じゃ、あとは頼んだぜ」
ドドドドド――!!!!
無数の刃が地面へ落ち、あたりを砕いた。
何度も、何度も。
粉々に吹き飛ばした。
肩を落とすウルカ。
絶望があたしを支配した。
頬に流れる涙。
(……死んだ、あたしのせいで……)
土煙が晴れた時。
そこにはラッシュの無惨な死体
「ごめん、待たせた」
は、なかった。
代わりに一人の魔道士がラッシュを抱え目の前に立っていた。
「は、はは……し、死んだかと思った……ぜ」
ラッシュは、死んではいなかった。紙一重で彼女に救出され、抱えられていた。
リンは微笑む。
「もう誰も死なせないよ」
ラッシュを置き、くるりとダガーを回転させ逆手に持ち直す。
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