第32話 継がれる


全ての白銀騎士倒し、アタッカーが合流。しかし【イグゼアの鬼刃王】のHPは120000もあるため思うように減らすことができない。おそらくここまでで与えられたダメージは2万ちょっとくらい。……ペース的にキツイか?ここらで俺もダメージを稼いだ方が良いか?


いや、まだ……ここで俺が一人で倒してしまえばこれまでのすべてが無意味になる。それは最後の手段だ。皆の眼はまだ死んでない。


(……みんなの力で強大な敵を倒す。それが最も重要なんだ)


集中力がかけてきた。そのせいでだんだんと皆の被弾率が上がっていく。ウルカが一番体力がないのだろう。脚がもつれ始めている。

しかしそれをラッシュとカムイがカバーしていた。一方、コクエはひたすら魔法をぶっ放しダメージソースとなっている。おそらくダメージの4割はコクエの与えたものだろう。


「皆、来るよ!!」


青の大剣【ヒョウカゲツ】による全体攻撃。床から氷柱を出現させる技で、瞬時にセーフティーゾーンへ移動しなければならない。


――ドドドドドドドドド!!!!


皆が移動し終わった直後に無数の氷柱が突き出してくる。その瞬間――


ドゴオオオオオオンンン!!!!!


氷柱を吹き飛ばし巨大な火柱が王に直撃し、王座へぶっ飛ばした。


「コクエ!?」


「ふふん!隙だらけだったからぶち込んでやったわ!!どーよ!!」


「ナイス!!」


走り出すラッシュ。起き上がった王の剣を躱し、再び敵視を取る。


「あは、は……これは僕も疲れたなんていってらんないなぁ」


ウルカも体力はないが気力が戻り始めている。……良いパーティーだな。


俺は『エアリアルヒール』を唱えた。ダメージの回復ではなく、肉体的疲労の軽減が目的だ。


「頑張ろう、ウルカ」


「ああ、頑張ろうリン」


駆け寄ってきたカムイの頭を撫で、彼女は再び前線へと駆けていく。


それから数十分。少しでも気を抜けばあっという間に終わりが来る、死と真隣りのやり取り。いくつもの死線を越え、重ねたダメージはついに王の行動パターンを変化させつつあった。


「横なぎくるぞ!!」


ラッシュが叫んだ瞬間赤の大剣【ヘルバウダー】が真横に振り払われた。ラッシュが魔力の盾を展開し、受け止めた大剣をコクエの風魔法『ウィンドブレイク』で跳ね返す。それにより剣の爆発が直撃を免れた、がしかし爆風による熱風や吹き飛んだ瓦礫などによるダメージは防げない。


だがあらかじめそれが来ることを予想していた俺は『ホワイトガード』ダメージ軽減バリアを付与し、それを凌ぐ。


(みんな俺が何も言わなくてもちゃんと王の攻撃を分析し対応できるようになった……!)


コクエに関しては隙を完全に把握してキャスト、リキャストの無駄がないよう魔法を撃ちまくっている……天才だな。ウルカも体力がすでに限界をこえているだろうに味方のフォローを忘れない。ラッシュが攻撃を捌ききれずにピンチになった時は陽動をかけパーティー全体に余裕ができる動きをしてくれる。いわゆるバランサー。カムイもしっかりウルカの指示を聞き、敵視を分散させたり高度な作戦に対応できている。


(このパーティーはおそらく世界ランキングの上位に食い込む力がある)


12人推奨レイド。本来、タンクはメインとサブの二人で攻撃を受け対応しなければならない。しかしそれをたった一人でこなしているラッシュ。そして、八人でダメージを稼がなければならないところをアタッカー二人と一匹でこなしている、コクエ、ウルカ、カムイ。


(みんなを俺が支えることができたら、もしかしたら……)


「コクエ!!!」


ラッシュが叫ぶ。


「任せなさあああいいいいい!!!!『アルフレア』―――!!!」


――コクエの閃光のような焔が冥門【イグゼアの鬼刃王】の頭を吹き飛ばし、王の倒れた轟音が戦いの終わりを告げた。


「「「「やったあああああーー!!!!」」」」「ワオーン!」


雄叫びにも似た叫びが王の間に響いた。ラッシュとコクエが走り寄ってきて俺に抱き着く。ウルカはその場でへたり込み仰向けになっていた。


「すげえええ!!倒せたぜ!!バケモンみてえな奴を!!俺たちが!!」


「死ぬかと思った死ぬかと思った死んだかと思ったあああああ!!」


よくよく見るとラッシュは恐怖と喜びが入り混じった奇妙な表情になっていた。対してコクエは再び恐怖心が戻ってきたようで大泣きし始めた。

俺はコクエの頭をなでながら、皆へと賞賛の言葉を贈る。


「ありがとう。みんなのおかげで死なずにすんだよ」


「はは、何言ってるんだい……それは僕らのセリフだよ」


「そうだぜ!リンが的確にヒールでカバーしてくれていたから俺たちは立ち向かえた……ほんとは怖くて仕方がなかった。何度も逃げ出したくなった。でも、お前がいたから攻め切ることができたんだよ」


「あんた……本当にヤバいわね。まるで予知しているように攻撃をくらった瞬間に、ぴったり回復魔法を差し込んでいるんだもん……」


俺は驚いた。あれだけの窮地でも、皆がしっかりと周りを見ることができていることに。そして、それと同時に湧き出てくる思い。初めて自分の仕事が認められ褒められた言葉に対する照れくささ。今まではソロだった。だからこういう経験をすることもなかった。


「まあ、数えきれないくらい戦ってきたからね」


捻くれた返しだなと我ながらがっかりしていると、ふわり柔らかい感触が頭を撫でた。それはコクエの手のひらだった。


「そうね。いままで、ひとりでずっと頑張っていたんだもんね……」


ぎゅっと体を抱きしめる彼女。その瞬間、堪えていたものが溢れてこぼれだし、頬を伝った。まだ終わったわけじゃないけど、その瞬間不思議と全てが報われた気がした。


「……さて、これからどうしようか?」


ウルカが立ち上がりいった。


「とりあえず倒した騎士から魔石や素材を回収しよう。このままだと死体ごとダンジョンに分解されてしまうから」


「そこはそこらのダンジョン魔獣と同じなんだな」


「うん」


「回収しおわったらどうする?奥、進んでみる?」


「……奥」


王座の後ろ。入口の扉と同じく巨大な赤い扉が少し開いていた。この先はレベル40~50の魔獣が生息し、初見殺しのダンジョンギミックもおおく、攻略難易度も跳ね上がる。


(みんなのステータスは)


☆【ラッシュ】レベル56。守護の戦士。

☆【コクエ】レベル48。黒魔道士。

☆【ウルカ】レベル56。賢人の狩人。

☆【リン】レベル67。白魔道士。


……正直、もう少しレベルは欲しい。って、ラッシュに二つ名がついてる。専用の隠しクエストをクリアしたせいかレベルもウルカに追いついているな。ってことは、コクエにもなにかあるはず。彼女のクエストクリア条件は何だ……いや、考えても仕方ないか。今は進むかどうか。


「時間はまだあるぜ」


魔族が襲撃してくるのは今日の夜。時間にして7時間後。確かにラッシュのいう通り、時間はある。


「わかった。少しここで休憩してから行ってみよう」



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る